戦争に行ったらしい人のはなし
ウチの父方の爺さんはもう17年ほど前にあの世に行ってしまったのだが、酒飲みで働かない人だったのであまり好きではなかった。
母から聞くところによると、母と父が結婚した当時爺さんは50歳前後ですでに働いてなかったらしい。
ただこういう戦争の話をネットで読んだりすると、考える。
戦後70年以上PTSDで入院してきた日本兵たちを知っていますか 彼らが見た悲惨な戦場
戦争に行ったらしい爺さんはもしかしてPTSD的な精神疾患を抱えてたのではないか?
だとしたら酒飲みで働くのが嫌いだった事も多少の説明はつく。
しかし戦後生まれの父親が同じように、酒飲みで働くのが嫌いだったことは納得いかないけど。
爺さんから戦争の話を直接聞いたことは殆どなかった。
我が家で猫を飼いだした頃にウチに顔を出した爺さんは、
「戦争してた頃はお前らの事喰うとったんやぞ~」
と冗談めかした感じで言っていた事があったくらいで。
私からも戦争の頃はどんなだったか?とかも聞いた事は無かった。
子供の頃から母親から父方の爺婆の愚痴を聞かされ、初孫の姉の方を可愛がっていた爺婆とは決していい関係では無かったので、余り会話の無いまま大人になった。
それと、何となくあの時代の事を聞いてはいけないような気がしたのもある。
それでも社会に出ていくつかのブラック企業を渡り歩き、
結果、多少の心の病を抱えてしまった私はここ数年ほど、
夏に戦争の話題を目にするたびに
「あー、爺さんももしかしたら、、、」
と思うのだ。
婆が先に逝き、2年後に爺さんがあの世に逝った後、住居の整理をした時に昔の写真が沢山入った箱が出てきた。
全部モノクロでまだ日本髪の若い女性が映った写真とか、婆の女学校時代のお友達写真とか、親族のイケメン夫婦写真とか色々。
その中に軍服を着て馬に跨った人の写真があった。
ウチの爺さんだそうな。
何年頃にどこの戦地に行ったか全く書かれていない。
戦地に行く前の訓練中の写真かも知れないけど、
何ひとつ聞いた事が無いので私は知らない。
でも確かに、爺さんが戦争に参加した記録があった。
戦後70年が過ぎて戦争経験者もどんどん少なくなっていくのだけど、
今になって戦争経験者について初めて知る記事をネットで見る事があるのは、
当時の事を思い出したくないと記憶の隅っこに追いやって静かに暮らしてきた人達が今になってポツリポツリと話してくれているおかげだ。
70年も封印したいくらい経験者にとって嫌な事だったのだ。
だから爺さんも戦争の話をしたく無かった人のうちの一人だったのかも知れない。
むしろそういう人の方が多いのでは?と。
我が家は爺婆とは別居だったが、何と言うか毒な家庭環境だったので、そのことを人に話すと大抵「ウソだぁ~」と笑われる。
どうやら普通の家庭と呼ばれるような家で育った人には、大げさに話を盛ってるように聞こえるらしい。
なので余程の冗談に聞こえない限り、自分の経験した事のない話に「ウソだぁ~」と言わないようにしなくてはと反面教師にさせて頂いている。
(まぁ大抵のウソはウソって気づくよね)
あの時代の事は、どれだけ本を読もうが映画を見ようが、戦後に生まれた世代には分からんのだ。
今の若年世代の就職難やブラック企業勤めの辛さが、若い頃に頑張ったら頑張っただけ評価されてお給料に繋がった高度経済成長期を過ごしたアノ世代の人達に理解できないように。
爺さんが生きてたら90歳くらい。
当時成人した二十歳そこそこの、今だったら多くの人が大学生か社会人でもしてるであろう年頃に戦争に行っていた。
もうそれだけでも理解ができない時代になった。
爺さんが働かず貧乏だったとか、とんでもないバカ息子(私の父)を育てたとかを許す気には1ミリもならないが、戦争の事だけは何も言えない。
行きたくて行った訳じゃない事だけはわかるから。
今は国を挙げての戦争ではなくて、国の中で組織と個人・個人と個人が何かしら戦争してる。
この戦争はいつになったら終わるのか。
日本は一度、道から外れた人間に厳しい国。
少なくとも爺さんより若いが中年期に差し掛かった私も、もう組織の中で仕事をする事は無いだろうなと思っている。
おわり