「そこかよ」 #夜更けのおつまみ
「俺たちの共通点って何?」
そう言ったKは、お皿に乗ったチーズを手にとり、KIRIN黒ビールを飲み干した。
彼はいつだってそうだ。いつも盛り上がってる空気に水を刺す。
僕とKとHは社会人になってから知り合った3人で、月に1回夜20時から集まって、朝方までなんの目的もなくただ話をし、創作おつまみを食べ、ビールを飲む。
僕は普段自炊をするため、いつもおつまみ作りを任される。今日作ったのはブロッコリーとベーコンとじゃがいもを蒸してから、オリーブオイルで焼いて塩胡椒をし、そこに生ハムを乗せた創作料理。あとは焼いたフランスパンに明太子を乗せたおつまみと、チーズだけを使ったピザの3品だった。
“僕たちの共通点...。”
僕とKは、もう8年の付き合いになる。ただの飲み友達というだけでなく、仕事もたくさんしてきた。彼の考えや性格も全てではないにせよ分かってきたつもりだ。
Hは、といえば、実はまだ出会ってから数ヶ月。Kが連れてきた人で、Kにとっては大切な友人だということだけは分かっている。時折見せる笑顔や僕が言う言葉にしっかり耳を傾けてくれてくれる辺り、Kが大切だと感じる理由もよく分かる。
そんな関係だった僕たちが集まるきっかけになったのは1杯のコーヒーだった。僕がコーヒー好きと知っているKが、コーヒーの輸入会社で働くHを紹介してくれたことから始まった。
コーヒーマイスター1級の資格を持つHが淹れてくれるコーヒーは本当に美味しくて、頻繁に飲みたいと思った僕が2人を家に誘うようになっていた。そしてコーヒーがビールに変わるようになるまでにそう時間はかからなかった。
“共通点...。”
僕に子どもはいないが2人にはいるし、Kはコーヒーにのめり込むほどではない。年齢もバラバラだし、実は飲んでいるビールもみんな違う。
僕はKIRINラガービールが好きで、KはもっぱらKIRINの黒ビール、Hは帰りの車の運転もあるしいつもKIRINノンアルコールビールだ。だからみんな各自で飲みたい物を買ってくる。
僕たちはそれぞれ買ってきたビールを飲みながら、創作おつまみを食べ、共通点を探し始めていた。いつもKはこうやって答えのなさそうな、しかも小難しい問題を投げかけてくる。確かに考え抜けた時は勉強にもなるし、時には成長を感じることさえある。でも今はなんだかそんな気分じゃなかった。
でも僕は必死に考えていた。もう時間は夜更けになろうとしている。食べ終わりかけたおつまみが、まるで残された課題みたいに、そう、今の自分たちを表しているかのように、テーブルの上に鎮座している。
「ねえ、まだ明太子って残ってる?」
相変わらずぶっきらぼうになんでも聞いてくるKに答えるように、僕は残った食材をお皿に乗せた。
なんだかそれが僕たちみたいで笑えてきた。よく考えてみたら、Hは、ブロッコリーとベーコンとじゃがいもを調理した上に生ハムを乗せた創作料理が好きだし、フランスパンに明太子を乗せた創作料理はKばかり食べていた。そしてほぼ自分のためだけに作ったようなピザは僕だけの物になっていた。
“僕たちの共通点...。”
ここまで違うともう探す気さえ失せてくる。
でも、最後に、
“素材”だけになってお皿に残った生ハムと明太子とチーズみたいな夜更けのおつまみが最高なのかもなって、みんな違うのに“素”になれるからこそ価値があるんじゃないかなって思えてきて、共通点のない僕たちだからこそ、結果的にこんな素敵な時間を過ごせてるんじゃないか、と感じるようになっていた。
あぁ、最高じゃん、これって。“共通点”なんかないのにさ。毎月集まって、あーだこーだ言って、夜更けまでおつまみとビールで気長に過ごす時間。こんな最高な時間、他にないよ。
K、ありがとう。なんかまた成長した気がするし、幸せをもらった気がするよ。
ありがとう...。いつも、本当に........
「あ!!!共通点!!!」
「え!なに!?K!あったの!?」
「これだよ!!」