NHKクローズアップ現代+「劇団四季 終わりなき苦闘 〜密着 再開の舞台裏〜」を見て、噛み締めた奇跡。
2020年7月28日(火)。NHKクローズアップ現代+で、コロナの中で生の舞台を続ける意味を問い続けた「劇団四季」の様子が放送されました。
7月14日(火)、劇団四季創立67周年であるこの日に約4ヶ月ぶりに公演が再開したものの、苦しい状況が続いている現実をまざまざと見せつけられた30分でした。
1000本以上の公演中止、損失額は85億円以上
劇団四季がコロナの影響で受けた損失額は85億円以上。2019年度の売上高が約242億であることを鑑みると、売上の1/3はマルッと吹っ飛んでいます。
さらに、劇団四季はガッツリ投資をし、公演で投資額の回収をしている劇団。「2つの新劇場オープン(四季劇場/春秋)」「新作大型ミュージカルの開幕(アナと雪の女王)」「新作オリジナルミュージカルの開幕(ロボット・イン・ザ・ガーデン)」など、大型投資案件目白押しだった2020年にこの損失額は相当ダメージが大きいというのが、容易に想像できます。(2015年に開幕した『アラジン』は「2年分の公演チケットが全て売れないと製作費が回収できない」とも言われていたほど、莫大な制作費用がかかっていました。『アナと雪の女王』はそれ以上の制作費用がかかってもおかしくありません。)
それに加えてコロナ対策で今後も費用が嵩んでいくことは間違いないはず。7月14日(火)、約4ヶ月ぶりに公演が再開したけれど、収容人数は定員の約半数以下が限界…つまり、公演すればするほど赤字という現実があるのです。(私は公演再開以降、3演目6公演に足を運んでいますが、悲しいですが約半数が埋まることすらほど遠い公演もありました。)
「続けなければ多分失われてしまうんです」
公演を再開しても赤字。抱えるのは莫大なリスク。そんな現実がある今、それでもなお公演を再開したのは何故なのか。
インタビューの中で、吉田智誉樹社長は「(公演が)終わったあとは涙を流してお帰りになるという光景があった。それを見た時に、人々をこういう気持ちにさせる仕事なんだと改めて思いましたし、こういう気持ちになることが人生では必要なんじゃないか。だから我々は仕事を続けなきゃいけない、続けなければ多分失われてしまう。失われたら戻ってこないと思う。だから苦しくてもやり続けなきゃいけない。」というお言葉を、伝えてくださました。
社長の言葉を聞き、今舞台が観れているのは、ものすごい使命感のもとで成り立っている奇跡なんだ、と実感しました。
「俳優のことはスルーですか?」
今後の運営について話し合っていた様子が映し出されていた時、坂田加奈子さん(放送内では元俳優のスタッフと説明)から社長に鋭い問いかけがありました。
「「大声を出さない」「対面が一番危ない」って今もなおこれが言われている中で、このリスクを犯して芝居をやってもらうという、覚悟を(俳優に)もってもらう、それでいいんですよね?」
実は私自身、ものすごく気になっていたところ。もちろん、徹底した消毒やフェイスシールド・マスクの着用、月1回のPCR検査、感染リスクの可視化実験…など、劇団側もできうる限り様々な対策を取られているけれど、それでもリスクを0にすることはできない。
「リスクを犯して芝居をしてもらう覚悟を持つ」それは一体どれほどのものなのだろうか…。
覚悟と使命感の上に成り立つ奇跡
今、コロナが広がり続けている中で、こうして生の舞台が観れるということ。それは想像を絶する覚悟と使命感の上に成り立っている奇跡なんだ…この番組を観て、そう強く感じました。
「ソーシャルディスタンスが叫ばれているけれど、離れただけの人生って味気ない。
夢の世界、舞台の世界へと、一時期に魂を遊ばせることは意味がある」
そうコメントがあったように、舞台を観ている瞬間だけは、現実を忘れ、どこか別の世界に連れて行ってくれる。
私にとっては、観劇は「浄化」。
劇場から出て空を見上げて「また頑張ろう」って思える。人生に欠かせないものなのです。
ただ、「再開してよかったと思えなかった」そう語る吉田智誉樹社長の言葉のように、まだまだ苦しい状況は続いていきます。
舞台を観れるのは、当たり前じゃない。
その事実を噛み締め、一観客として、できる限りのことをしていきたい。そう強く感じました。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4446/index.html