見出し画像

前髪とセンチメンタル

前髪が長い。
長い方が気に入っているし、落ち着くんだけど1つだけ困っていることがある。
前髪、邪魔である。

気に入っているとか落ち着くとか言っておいてアレだけど、邪魔なのだ。

耳にかけるには半端な流さで、下を向くと落ちてくる。
右側だけ何度も何度も耳にかけるから癖がついて妙なクセがついてくる。

邪魔になるよりいいんだけど、いいんだけど、よくない。
この矛盾した感情をどうしてくれようか。
どうしようもないんですけどね。

いっそ耳のあたりだけ刈り上げてみてもいいかもしれない。
それにはちょっと勇気が足りない。
オラに勇気をわけてくれ。

あ、実は刈り上げたくないから勇気は送らないでもらって大丈夫です。

こんな感じで前髪問題にモヤっとしていると洗面台にケープがあるのを思い出す。
いつからあるのかわからないケープ。
そもそもなんであるんだろうか。
かつて同じように前髪に悩んだときの忘れ物だろうか。
中身は入っているようなので吹きかけてみる。

懐かしい匂いがした。

小学生まで私はおばあちゃんと一緒の部屋で寝ていた。
おばあちゃんはケープを頭に吹きかけて身支度を完了させる。
貝印のカミソリで眉毛を整えたり、顔の産毛を剃ったりしてもらったこともあった。
「うごぐななぁ」と言われなくても、ひんやりとした刃をあてられると緊張して動けなくなる。
晩ごはんの手伝いをしたり、自転車でおばあちゃんの実家に行ってみたり。
怒られることもたくさんあったけど、特別扱いしてくれることも、それ以上にあった。

匂いは記憶と紐づいているらしいけど、まさに。
あ、おばあちゃんの匂いだ、と気づいたら思い出があふれてきた。
懐かしい。
墓参りのときですら、こんなに思い出さなかったのに。

思い出していたら寂しくなってきた。
まさかケープでこんなに感傷的になるなんて。

ちなみに前髪がキープされているのかはよくわからなかった。
しばらく使い続けてみる予定。
感傷的になりすぎないといいなあ。

いいなと思ったら応援しよう!