第十九回俳樂會選評
いつも素敵な配信をしてくださる芙蓉セツ子さんのYouTube句会、当日〆切には間に合わなかったのですが選評などです。
なかなか自粛モードで家事に追われると他のことが出来なくなるもので、いつのまにかこんなに時間が空いてしまいました。
選句・評
天 つぶらかな野獣の心夏近し(ROSETEA)
のっけから美しい響きの日本語、小さくて丸いという意味の言葉が「瞳」にではなく「心」にかかっていることへの驚きがありました。
春から夏にかけて生き物はさかりを迎えるけども、この心を持った野獣はおそらく体も同じようにつぶらかなのかなと。それとも作者の中にふと生まれた本能のような心か。どちらにしても命への愛おしみを感じました。
**地 茶柱の聳へたるごと山笑ふ(芙蓉セツ子) **
茶柱が聳える、というのも面白い表現だなと思いました。
そして山笑ふという広大な季語に自然につながっていく対比のパースペクティブが良かったです。屋内にいながらも自然の移り変わりを感じる作者の満ち足りた生活が伺えます。
**人 ヘアゴムの痕を残して夏近し(芙蓉セツ子) **
夏の近づくイメージにぴったりな場面を女性ならではのあるあるでよく描写できているなと思いました。体育の授業や部活の前後で下ろした髪に残るゴムの跡が微笑ましさを誘います。
福 じやんけんに負けて富山は蛍烏賊(ペラ男)
一読してすぐに想起される池田澄子さんの「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」のパロディでありつつも、一転して後半は地口のような威勢の良さが絡み合っていて、個人的にはとても楽しいと思いました。こういう句に会えるのも、俳樂會の良いところかと。
**禄 乳飲み子のほっぺ撫づるや竹の秋(芙蓉セツ子) **
隠されているオノマトペ「さらさら」が脳裏と心に響きを落としていく、そんな優しい句だと思いました。
**寿 花ミモザ日常茶飯なる絶交(綿井びょう) **
こういう句は詠みたいけれど詠めないのですごく羨ましいのです。たぶん経験できていないから?女の子の友情ってそういうものなのかなと思うけどわたしにはうまく想像できず。
でも花ミモザの可愛らしさが絶妙に軽やかさを与えていて、幸とも不幸とも言い表し難い世界の輪郭を浮かび上がらせてくれているのかと感じました。
**提出句 **
恐竜の目は茶色なり紫木蓮(佳作)
新嘉坡で燕になって捕まえて
豆苗の茎あをあをと夏近し (三席)
の三句が村蛙の提出でした。
新嘉坡(シンガポール)はもうすぐ発売される作品の舞台世界なのですが現実に行ったことがなく、空想の旅行というお題でしたのでなんとなく使ってみました。
豆苗の句以外は脳内俳句なわけですが、恐竜の句は木蓮が実際恐竜時代から残っている種だという記事を見て詠みたくなったものです。
「なり」という断定が果たして意味があるのか、まだ一考の余地があると思いました。
脳内俳句といえばこの後現代俳句協会の方でzoom句会に参加した時に選に入った句もありました。
その時のこともいずれまとめられたらいいなと思います。