総合診療
総合診療という診療科を耳にしたことがあるだろうか。
医師は基本的に2年間の初期研修を終えると、その後、さらなる専門医の取得に向けて、内科、外科、小児科など自分が興味がある専門医になるべく、さらなる研鑽を積むことになる(おおよそ3年程度かかる)。そして、それらの"専門医試験”を突破するとさらに細分化したサブスペシャリティ領域(24領域)の研鑽が待っている(更に数年かかる)
2018年度に基本領域として「総合診療専門医」、19番目の新しい専門分野が誕生した。
私は初期研修時代に進路に悩んだ時、産婦人科か、総合診療科専門医を目指すか迷っていた。しかし、最終的には「自分の家族を診られる医者になりたい。」そう思って総合診療科に進むことにした。
よく「心療内科なの?」「内科との違いは?」と聞かれるのだが、わかりやすく言うと、それらひっくるめて診る「何でも屋さん」ということになる。
総合診療専門医取得のための受験要項は①小児科・救急科・内科・地域(医療資源の乏しい地域での)医療・診療所などそれぞれ決められた期間研修すること、②レポートの提出、③学会発表などがある。子供から高齢者まで、緊急を要する事態~慢性疾患の管理、予防医療まで、幅広く、医療資源の限界を認識しながら様々な現場で臨機応変に対応する能力が必要なのだ。そして、必要な時には適切に他者(これは他職種かもしれないし、児童相談所かもしれないし、他の専門医かもしれないが)に相談・紹介し患者を路頭に迷わせない。
そういう意味で言うならば、町医者もそれに近いものがある。ただ、今、町医者として頑張っておられる先生方は、例えば元々呼吸器内科だった人、消化器外科だった人たちが、病院勤務を終えて開業して専門医療をやりつつ内科一般を診ていることが多い。先に記載した通り、細分化された医療に長年従事していると、診る症状・疾患が大体決まってくる。なので、いざ開業しはじめると、これまであまり診てこなかったタイプの症状の人たちとも向きあうことになる。多くの町医者の先生方は適切に順応し、学び続け、地域医療を支えておられるが、一部では医療の質が崩れてしまうこともある。それなら、大きい総合病院に行った方が安心だよね、と日本人はなりがちなのだが、そうとも限らない。高齢者は複数の病気を持っており、ポリドクター・ポリファーマシー(詳細は割愛)・受診疲れなどの問題が起こるし、高齢者ではなくても「うちは●●科だからその症状は診れない、あっちの診療科に行って」など、理解されにくい症状であればあるほど、たらい回しになる可能性もある。難しい症状の場合は、継続して診療していくうちに解決の糸口がみえてくることもあるので、とことん向き合えってくれるかかりつけ医をみつけることを推奨するが、一般病院では、何度も言うように細分化されていることが多く、ある程度検査をして異常がなかったら「うちは終診(一旦通院は終了)、まだ心配なら他に行って」となってしまう。長く付き合っていくことが難しいのも実情だ。
少し話はずれるが、海外では「かかりつけ制度」がある国もある。緊急の場合を除き、病気にかかったり怪我をしたりして受診したいときはまずGeneral Practitioner(GP)(家庭医・総合診療医)のもとへ行く。長年の信頼関係が築かれているので安心して受診できるし、必要ならその信頼する医師の紹介で他の専門医にも受診できる。またGPは(あえていうが、臓器別に凝り固まった診療をしておらず)身体すべてを診ることができるため、思いがけない疾患に気づくこともできる。
総合診療医の働き方について例を挙げるが、様々である。
・大学病院で主に診断困難事例・複雑困難事例などを扱う
・中小規模の総合病院で外来・入院・救急患者に対応する
・町医者として外来患者を診る
・訪問診療をする
長くなってきたので、この辺にするが、正直言ってどんな分野に進もうが大変なことには変わりない。命を預かるため責任も重い。頑張っても報われないこともある。ただ、様々な人生に触れることができ、喜びも悲しみも患者・家族とともに味わえる醍醐味がある。
日本ではまだまだ少ない総合診療医。腰を据えて様々な問題に向き合っていく覚悟を持った人たちが総合診療医・家庭医である。研鑽を積んでいる総合診療医に出会ったら、ぜひ励ましてあげて欲しい。
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