「思考力改善ドリル」を読んで
主観的な判断に依存していたり、客観性を「信頼できる人が言ってる」とか「みんながそう言ってる」レベルでしか認識できないような世間を眺めていて、じゃあどういったプロセスを経れば思考力が高まるのかということを考えていたら、なんだかちょうど良さそうな本がちょうど出版されたので気になって読んでみた。んだけども……。
反証?
結論から言うと、「批判的思考から」の部分はとても良いまとまり方ですごく参考になった。しかし、肝心の「科学的思考へ」の部分の描かれ方がなんだか息苦しいのだ。非科学・疑似科学に対する科学という位置づけで語られており、科学哲学の反証主義から反証可能性を軸にして科学的思考を説明するという流れになっている。
楽園
ドリルというくらいだから多少一般向けに発信されている本だと思うのだけど、この「反証可能性で成り立つ科学」という世界観がとてもネガティブにアカデミックなのだ。もちろん、アカデミックではない日常においても、より正確な情報を得たいと思う場面は当然にある。その過程で自分が思いたいストーリーに沿ってしまう罠については、前段までに描かれている。しかし、科学的でありたいというモチベーションは、「非科学的であってはならない!」というアカデミックな世界のブラックな側面にへばり付いているような強迫的なものではないはずだ。
モチベーション
自分は、割と暴走気味に推論をぶちかましてゴリゴリと斜め上に問題解決を試みる、科学・非科学・疑似科学の境界を緩めてぶん回して科学のふるいに耐える理論を抽出していく非効率でマイニングなアプローチをしているのだけど、まあそれが楽しいからやっているのだ。非科学・疑似科学は、歴史的な耐久性が低い。いつか、科学的に整合性のある理論がババーンと打ち出された時には、わらわらと集まっていた群衆がさっと消え失せ、はじめから無かったかのように打ち捨てられる運命にある。科学的な理論は、後の時代に差異を修正した新しい理論が考案されたとしても、科学の進歩を描く歴史の1ページとして残る。自分は、その歴史的な耐久性に魅力を感じる。そういうモチベーションを持っている。
突然の自分語りになったけど、つまり科学的思考に辿り着くためには、モチベーションがだいじだと思うのだ。様々な選択肢がある人生において、楽しくない科学を誰が目指すんよ。
たられば
ということで、科学が楽しいものであるという方向で描いて欲しかったなあともやもやしながら読み終えたのでした。「直感と熟慮」、「因果関係」、「対照実験とその周辺」、「推論」までの理論はとても勉強になるので、そこまではオススメな一冊です。口惜しや。