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TATEYAMA GIN リリース記念対談「新しい場づくりの挑戦者たちが描く、理想の”場” 」【後編】

こちらは『TATEYAMA GIN リリース記念対談「新しい場づくりの挑戦者たちが描く、理想の”場” 」【前編】』の続きです。


“半島の端から、オルタナティブな生き方を肯定する” を掲げ、2021年5月4日(火) 千葉・館山に完成した複合施設「TAIL (=Tateyama Area Incubation Lab)」。閉鎖されていた段ボール会社の旧本社をリノベーションし、館山の “ハブ” を目指す場として、〈 WORK×STAY×HOBBY 〉の3つの複合スペースを展開します。
そして6月21日(月)には、TAIL 1Fの蒸留所で作られるオリジナルジン「TATEYAMA GIN(タテヤマジン)」がリリースされます。

ここでは、TAILの発起人であり館山市の地域おこし協力隊でもある 建築士大田聡氏と、TAILやTATEYAMA GINのコンセプト設計から携わり自身も代々木上原でコミュニティスペース No.を運営する 301.inc大谷省悟氏による、対談インタビュー(全2回)をお届けします。

後編では、TAILが目指すものやTATEYAMA GINに込められた想い、そして新たな視点で捉える ”場” づくりに対する挑戦について語っています。

TAIL HP:
https://tail-tateyama.studio.site


■対談者PROFILE

大田聡
TAILのリサーチからファイナンス・デザイン・ビルド・オペレーションまで一括で行う建築士。東京と館山の二つの地を行き来しながら生活し、館山市の地域おこし協力隊としてリノベーションまちづくりにも関わる他、建築士事務所 office OTA. 主催、TATEYAMA BREWINTG inc. 代表取締役。空き家マッチングコミュニティ AKIYA STOCKを運営。多角的に空き家・地域の再生に携わる。
大谷省悟
クリエイティブチーム301.inc 代表。飲食業態とクリエイティブオフィスが融合したコンセプトスペース No.のオーナーでもある。「人生と仕事をひとつにする」をミッションに、モノ・コト・場のデザインだけではなく、仕事のはじまり方やそこに関わる人々の関係性のデザインを追求。


地元住人の自己実現の場でもある「TAIL」が目指すのは、現代版・街の観光案内所

―TAILのことについて詳しく教えて頂けますか?TAILはそもそもどんな施設でしょう?


大田:ある意味雑居ビルみたいなものですけど、入ってるもの同士が連動している、複合施設ですね。


―カフェ&バー、蒸留所、ホステル、コワーキング、オフィスで構成される複合施設TAILの、他にはない特徴って何でしょうか?


大谷:その質問の軸がちょっと答えにくいのは、機能が起点じゃなくて、ただやりたいことやっているというところがポイントだからなんですよね。

ディベロッパーの発想は、どんな機能を実装してビジネスとしてまわしていくのかがスタートにあるから、何をやりたいということがない。TAILの場合は、どのようにビジネスを生んでいくのか、からじゃなくて、何をやりたいか?をこの建物に突っ込んで実現していくって考えから生まれているという。うるさんがやってる「マイクロデベロップメント」に通ずると思うんですけど。


大田:確かに大型開発って、マーケティングの塊ですよね。僕らがやっている「館山リノベーションまちづくり」っていうのも、大きい資本を投下してガンガン改修していこうではなくて、一つ一つが少しずつ変わっていく、という集合体でしかなくて。

そもそも村とか街のでき方って自然発生的な気がしていて。そこに川があって便利だからまわりに定住する人が増えて、町ができる。僕らがやっている「リノベーションまちづくり」ってまさにそれだと思うんですよね。一個一個少しずつ変わっていった方が自然な出来方かなって。自分がやりたいことをみんながどんどん始めていくと、実は町になっていったって感じかもしれないですね。


―やりたいことがやれる複合施設として、具体的に地元の人や訪れた人はどんなことができるんですか?


大田:例えばカフェ&バーはレンタルキッチン式にして、地元のお母さんが自家製のフォカッチャとかグルテンフリーのお菓子を作ってカフェ営業をできるようにしたり、オープンに開いていこうとしているところで。一階のフリースペースでは、将来的には地元のお母さんたちが展示できる物販の場を作ろうとしていたりとか、色々考えています。

あとTAIL自身を地域の入り口として作りたくて、TAIL内の安房地域の地図にショップカードをペタペタ貼って初めて来た人を案内できたらいいなと。TAILに来たら、こういうのあるんだって知ってもらうきっかけを作りたいんですよね。


大谷:それで思い出したんだけど、観光案内所って駅降りるとどこ行ってもあるじゃないですか。女の人がひとり座ってて、バスの時刻表だけ渡すみたいな。あれすごい無駄って思ってて、人件費かかるし。

あれやるなら、その地域で今を担っている若い人が、駅前にコーヒースタンドくらいの感じでかっこよく作っちゃうとか。旅のスタート地点として、とりあえずそこに行けば今どこが面白い?みたいな会話を、カウンター越しにコーヒー1杯飲みながらできる場所が日本中にできたらめちゃいいなって思うんですよね。今一番館山で何が面白いのかって、ガイドブックに載ってないしググっても分かんない。本当は知り合いに聞くしかないんですよ。まず最初にどこに行けばいいのか、それがTAILであるっていう立ち位置だといいんだろうなと。


大田:確かに。ゲームとかで、情報は酒場で聞くみたいな感じですよね(笑)。館山は海から山までコンパクトにまとまった選択肢の多い場所なので、いろんな人のニーズに答えられますね。


「TAIL」と「TATEYAMA GIN」に込められた ”オルタナティブ”とは?

―今回、TAILのブランディングからTATEYAMA GINのコンセプト設計も、301の大谷さんとタッグを組んでいるんですよね。

大谷:自分も含め、客観的に自分がやりたいことを整理して説明するのって結構難しいと思うんですよね。これは自分の基本的なスタンスでもあるんですが、大田さんと会話していきながら、建築に対する考え方や今歩んでいる道、二拠点生活に関する想いを、TAILの概念にどう繋げていくかみたいなところから一緒に整理していきました。そして「TAIL as Alternative」というTAILの全体の考え方が整理された後に、その延長線上にTATEYAMA GINをおいたイメージですね。


大田:今回のTATEYAMA GINの話でいうと、そもそもお酒づくりって結構ハードルが高くて、DIY文化が発達している館山だからこそ、自分で作ること自体の体験価値を大きくしたいっていう思いがあったんです。それに、蒸留酒って材料としていろんな素材が使えるので、実は地域との相性も良かったのもあり。


大谷:そんな流れもあって、TATEYAMA GINの表現の形態として、”ラボ” や “実験” をコンセプトにしています。大枠の考えとして ”オルタナティブ” という何か違うことをやっていくという起点があるので、完成した味をただ売るだけじゃなくて、選択肢を持たせたかった。


大田:だから今回、お客さん自身がDIYでジンづくりにトライしてもらうっていう体験価値も入れているんです。具体的には、今回2種類のジンシリーズを展開予定で、ジンのベースとなるボタニカル(スパイスやハーブなどの素材)を単品蒸留したエレメントシリーズと、それをブレンドしたブレンドシリーズ。エレメントシリーズは、お客さん自身が好きな種類を好きな分量混ぜて作れるので、自分だけのブレンドを作ることもできます。

一から蒸留酒や蒸留所を作るのはハードですけど、エレメントを好きな分量で混ぜるのは簡単にできる。あと、体験蒸留もやっていこうと思っていて、今までできなかったことをできる町にしたいというか、自己実現できる場所にしていきたいですね。


大谷: 大田さんの話を聞きながら考えていたのは、今回の体験価値って、例えるなら東急ハンズで売ってるろくろで作る器セットと、作家が作った器、の立ち位置に違いに近いような気がしていて。

ジンをブレンドすることって基本的にブレンダーの腕が重要で、そこにクオリティの違いが生まれますよね。そうなると、プロダクトとしての味のクオリティを追求しようとすると、素人である自分がブレンドすることって逆行する考えではあるんですよ。

でもろくろセットって、これが最高の逸品になるかどうかではなくて、これをやることによってその人が器を見る目線とか距離感が変わって、そのものを見る解像度が上がっていくと思うんです。それによって器自体により深く関与していくようになって、それこそが体験価値の答えな気がしていて。プロじゃないけどやってみる、みたいな。例えばコーヒーも、自分で豆を選んで淹れた経験があるかどうかで、お店でエチオピア産の豆ですって言われた時の解像度が全然違いますよね。それが美味しくなるかどうか置いておいて。


―そんな中身へのアプローチに対して、パッケージやデザインはどういうコンセプトがあるんでしょう?


大谷:「TAIL as Alternative」として、TATEYAMA GIN自体にも何か少し尖りやひねりみたいなものを加えることは考えてました。例えば、普段ジンのパッケージで使わないような赤と黒のビビッドで尖った色合いを使ったり。あとは独自の文化圏の象徴として「館山文字」を作りました(笑)

デザイナーに古代文字をリサーチしてもらって、アルファベットに当てていく法則性を考えてもらったんです。象形文字じゃなくアルファベットみたいなものなので、字として組み合わせられるし、並べた時に字面としても成り立つようにチューニングして。これだけで、お客さんと会話が成り立つんですよ。これなんですか?館山文字です。どういうこと??みたいな(笑)

理想の “場” を作る、ということ。

―お二人とも “場” を創造するという事業を手掛けていますが、理想の “場” とはなんだと思いますか?

大谷:”場” を作るという自社事業ではあるけど、ある意味で二人ともこの事業が主じゃない。そこで全部稼ごうとしているわけじゃなくて、ある種、僕らが面白いと思っていたのはこういうものだよというプレゼンテーションみたいに考えてますね。この人たちにこういうことを相談したら面白そうだなとか、普通じゃない何かをこの人たちと作ってみたいとか、この場所を通じて相談してもらえたら嬉しいです。


大田:最近思うのが、ゼロからイチを作るタイミングが一番面白いと思うんですよね。そこを並走して欲しいと思ってる方って実はいっぱいいるんじゃないかと思う。


大谷:確かに、ゼロイチを作るって孤独ですよね。サポートしますよって言ってくれても、実際自分からはやってくれなかったりする。あと、謎に批判されたりもしますしね。No. 立ち上げの時も、前例にならえの批判で、散々いろんな人たちに「絶対そんなの上手くいかない」とかって言われました。

結局自分がやっているのは、クリエイティブとかブランディングは極論おまけみたいなもので、信念に従いゼロイチで何か新しいものを作ろうと思っている人に対して、それを形にしてくための仲間として自分が加わるということ。精神的な支柱だったり、客観視するキャッチボール相手としてのパートナーとして寄り添うことの方が大切ですね。


大田:僕もだいぶ助けられました。


大谷:理想の “場” という話でいうと。自分は、文化とビジネスの交差点のようなものだと思ってますね。人が “場” と言われてイメージするのって、家庭よりも大きく組織よりも小さい規模をイメージするじゃないですか。No. もそうなんですけど、家庭よりも少し外に開かれていて、でもそこは会社じゃない。その中間に、良い人の営みみたいなものを作っていくということが「理想の場とは?」という問いに対して考えさせられたことですね。


大田:それでいうと僕は、TAILが自己実現をする “場” になって欲しいなと思いますね。今までやれなかったこと、自分の領域の中に無かったものを体験できる場所。

3階のシェアオフィスは「SABOTAIL(サボテール)」って名前なんですが、そこは日本一仕事をしないオフィスにしようとしていて。遊びの延長線が仕事になり得るというか。いわゆるデスクワークは東京でやって、TAILにきたらガシガシやるよりかは、次はどうやっていこうかということを考えるための妄想の場であって欲しいし、それが自己実現に繋がったらいいなと思います。


大谷:No.とTAILのポジショニングの話でいうと、TAILは大田さんのやりたいことを詰め込んだ場所だとしたら、No. はそのような考えを感じてもらうための場所かもしれないですね。ある意味で自分がやりたいことを詰め込んではいるけど、どちらかというと、ライフとワークを繋ぎ込んでいく、この2つが同一線上にあれるよねということをプレゼンテーションする場所というか。


大田:僕も、休みの日何してるのって聞かれても仕事してますねって言いますね。いわゆる仕事って言うけど仕事じゃないんですよ、結局は。遊びであり趣味ですね。

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