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【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#3 思いでのハーモニー

〔第3話〕

#夢幻伝説タカマガハラ #二次小説 #澪標シリーズ


中つ国。

あれはもう、
1年半も前のことだ。

桜の蕾が膨らみ始める、
別れの季節。

神代小の体育館では、
厳かに、卒業式が行われていた。

中学校の制服や、
最近のアイドルたちが着ている、
制服のような私服。

あるいは、きちっとしたスーツや、
よそゆきの可愛らしいワンピース。

卒業生全員が、
いつもとは違う服装に身を包み、

新たな門出に胸を膨らませていた。

神代小6年2組に在籍する、
美作百合(みまさかゆり)も例外ではない。

彼女は歌うことが大好きで、

中学校に入ったら、
合唱部に入ろうと心に決めていた。

(和泉くんも、そうだといいな……)

彼女は、隣に並ぶ、
金髪の少年を横目で見やる。

これから、卒業式のクライマックスともいうべき、
卒業生全員による合唱が始まるのだ。

曲目は、「さよならは言わないで」。

男子の声変わりが
始まっていない小学生の合唱だから、

ソプラノとアルトの二部構成だ。

パート分けの方法もいたって単純で、
男女関係なく、

奇数クラスはソプラノ、
偶数クラスはアルトといった具合だ。

2組の百合はアルトを、
1組の那智はソプラノを歌うのだ。

ともに歌唱力があり、
つられにくいと判断されたふたりは、

それぞれのパートの境目として、
隣に並ばされたのだった。

(和泉くんの声、
何度聴いてもすごく綺麗なんだもん……。
中学に入っても、一緒にハモれたらいいなぁ……)

耳のすぐ近くから
聴こえてくる彼の声は、

女である百合が羨ましいと思うほどの、
美しいボーイソプラノなのだ。

張りが合って、伸びやかで、

こんなに素敵な声とハモれることが
今日で最後だなんて、

思いたくない。

(式が終わったら、聞いてみよう。
和泉くんは中学で、何部に入るつもりなのか)

神代中の合唱部は強豪で、
他の学校と違い、男子部員も多い。

もし違う部活に入るつもりなら、
思い切って誘ってみよう。

百合がそう決意したところで、
曲の前奏が始まった。

やがて体育館全体に、
卒業生全員による合唱が響く。
いつしかその声は、
涙交じりになり、

父兄や在校生からも、
すすり泣く声が聞こえてくる。

窓の外では、膨らみ始めた桜の蕾が、
その様子をあたたかく見つめていた。


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