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【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#20 つながれた手

「一緒に、この川を渡ろうよ。
そしたら、おまえはオレのものになるんだ……。
『あの女』のことなんか忘れて、オレのものに……、オレだけのものに……」

そう言って、那智は颯太を川に誘い込もうとする。

「あの女」とは誰なのかと颯太が問えば、
嫉妬を剥き出しにして、
憎たらしいドッペルゲンガーだと吐き捨てる。

どうやら、「あの女」とは高天原の那智のことで、彼は彼女を心底憎んでいるようだ。

彼女に自分の大切な人を、颯太を奪われたからと。

だから、自分も奪ってやるのだと。

次々と繰り出される那智の言葉に、
明かされていく感情に、
颯太は驚きを隠せない。

まさか、自分を奪われたから、
奪い返したいだなんて。

自分を、独り占めしたいだなんて。

(オレを、求めているのか……?
那智が、オレを……?)

颯太にとって那智は、
どちらの世界でも、「高嶺の花」だった。

手に入れたくてたまらないのに、
それが許されない存在。

那智にとって自分は、
仲間の一人にすぎないのだと思っていた。

仲間という垣根を越えられない、
侵せない存在なのだと。

(だから、諦めようと思った……)

特に中ツ国(むこう)の自分は、
その思いが顕著だった。

何せ中ツ国(むこう)では、
男同士なのだから。

(諦めようともがいた結果が、これか……)

あまりの皮肉さに、颯太は苦笑を漏らす。

きっと、中ツ国の自分は禁忌を犯したのだ。

夢でしか逢えない幻に恋をしているという錯覚を
己に植え付け、

和泉那智の上に「彼女」を重ねて見続けた。

そのせいで、彼をひどく傷つけてしまったのだろう。

(当然と言えば、当然の報いだけど……)

それでもここで、
彼と心中するわけにはいかないのだ。

(オレは、那智が好きだから……)

どちらの那智も好きだから。
今ここで、終わるわけにはいかない。

「なぁ、颯太。早く来いよ」

そう言って右手を伸ばしてくる那智に、
左手を掴まれる。

欠片の力か、幽体離脱の状態でも
唯一物を掴める那智の右手は、

颯太を容赦なく川へ引きずり込もうとする。

その力に抗うように、
彼の手を岸辺に向かって強く引っ張る。

決して、振りほどくことはしない。

(絶対に、離したりしない……)

颯太の思いに反応したのか、
それとも単に、ふたつの欠片が共鳴しただけなのか。

突然、颯太の左手と那智の右手に宿る欠片が
光り出した。

淡い碧い光は次第に大きく膨れ上がり、
ふたりを飲み込んでいく。

そして、ふたりをそのまま、
異空間へと連れ去った―。


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