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【二次小説】悪ノ娘ト召使 エピローグ 涙を小瓶に詰めて

私は、小さなガラスの小瓶を
片手に、海辺を歩く。

波打際で、寄せては返す波に
足を浸しながら、

やわらかい砂を踏みしめる。

城が落とされ、
「悪の娘」が処刑されてから、

もう半年が過ぎた。

私はあの後、なんとか、
昔、家族で暮らしていた
小さな港町に辿り着いた。

教会のそばで行き倒れていた私を、

教会に身を寄せていた
一人の若い女性が助けてくれた。

彼女は、戦で家も親友も
失ったのだという。

彼女の紹介で、
シスターに引き合わされた私は、

彼女と共に、
シスターを助けながら
教会で暮らすことになった。

シスターは、
私が悪の娘だということには
気づいていなかったけれど、

私が昔、この近くに暮らしていた
双子の片割れだということには
すぐに気がついてくれた。

「懐かしいわねぇ……。
あれからもう8年だなんて……。
また会えて嬉しいわ……」

まるで、自分の孫にでも
会っているかのように、

本当に懐かしそうに笑う。

その笑顔に、
遠い日の記憶が蘇る。

――はい、一個ずつね……。
取り合いしちゃだめよ……――

そう言って、

私とレンに一個ずつ
キャンディーをくれた。

私とレンに一個ずつ。

(レンっ……)

レン……。私も会えたよ。
懐かしい、あの笑顔に……。

ぽろぽろと泣き出した私を、
シスターはそっと抱きしめてくれた。

年老いた彼女の体は
とても小さくて、
手もごわごわしていたけれど、

それでも、伝わってくるぬくもりは
とてもあたたかかった。

(目には見えない大切なもの……)

ねえ、レン……。それって、
こういうことなの……?

記憶の中のレンに
問いかけながら、

私はシスターの腕の中で
大声を上げて泣いた。

(でも……)

本当はあの時、
泣いてはいけなかったのかもしれない。

行き倒れていた私を
助けてくれた「彼女」は、

私が仕掛けた戦のせいで、

家はおろか大好きな親友までも
失ったのだから。

私はそっと、
手にしていた小瓶を海に流す。

この海に昔からある、
密かな言い伝え。

(願いを書いた羊皮紙を、
小瓶に入れて海に流せば、
いつの日か想いは実る……)

昔、家族と共にこの港町に
住んでいた頃、

母親からその話を聞いて、
レンと一緒に、

たわいない願いを書いては
海によく流していた。

あの頃は何にも考えず、
ただ無邪気な願いばかりを書いていた。

(ううん……。
何にも考えていなかったのは、
半年前も一緒……)

この国の王女として、
君臨していた頃。

私は何にも考えず、
ただ、自分に課せられたものを嫌がり、

ふてくされていた。

そのくせ、欲しいものだけは
当たり前のように受け取っていた。

……どうして、今更になってから
気づくのだろう。

(もっと、早く気づいていたら……)

レンは、死なずに済んだかもしれない。

後悔だけが胸に募り、
涙が溢れる。

どんなに悔やみ、
どんなに泣いても、

私の罪は決して
許されるものじゃない。

(それでも……)

それでも、こんな私の願いでも、
まだ、届くのならば……。

(どうか、天国のレンが
幸せでありますように……)

そして、もしも
生まれ変われるならば。

(レンが、心から笑えますように……)

願いと、後悔と、
少しの涙。

それらの詰まったガラスの小瓶は、
ゆらゆらと揺れて、

やがて、水平線の彼方へと
静かに消えていく。

(レン……。私、生きるよ……)

あなたが私に教えてくれたことを胸に、
今を精一杯生きていく。

しばらくその場に佇んでいた私は、

手の甲でぐいっと涙を拭い、
教会へと続く道を歩き出した。


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