
【タカマ二次小説】宿り木の果てに#12 桜の咲くころに
4月。
桜の花びらが舞う坂道を、
結姫は長いポニーテールを揺らしながら、
軽やかに登る。
やがて見えてきた人影に、
大きく手を振る。
「みんなおはようっ!」
「おーっす!」
先に校門の前に集まっていた
4人の少年たちが笑顔で迎える。
今日は神代中の入学式だ。
「しっかしアレだな、
全員同じクラスになるなんてな」
嬉しそうに笑う泰造に、
圭麻も笑顔を返す。
「運命ですねっ!」
しかし、颯太だけが、
浮かない顔でぼそっと呟く。
「腐れ縁だろ」
すかさず、
那智が彼に向って飛び掛かる。
そして彼を羽交い絞めにすると、
嬉しそうに叫ぶ。
「いつまでもふてくされてんじゃねーよっ!!
本命私立落っこちたくらいでよっ♪」
「うわーっっ!!蒸し返すなー!!
忘れよーとしてたんだぞ!!」
わーわー騒ぐふたりを尻目に、
泰造が呟く。
「これで、アイツがいたらな……」
「しっ……!」
圭麻が、慌てて人差し指を立てる。
けれど、結姫の耳には聞こえてしまった。
この場にはいない、
ただ一人の面影を胸に、
結姫は桜を見つめる。
(隆臣……。私たち、中学生になったよ……)
―― 子どもはもう寝な ――
不意に、
高天原で聞いた彼の声が蘇り、
結姫はとっさに、
桜に向かって呟く。
(もう子どもじゃないもんっ!)
ふと、足音が聞こえて、
振り返る。
するとそこには、
懐かしい人影が立っていた。
「神代中って……、ここだよな……?」
問いかけるその声は、
まさに夢の中の声そのままで。
「隆、臣……?」
夢でも見ているのかと、
そんなことを思う。
けれど彼は確かにそこにいて、
結姫に向かって笑いかける。
「なあ、もう一度聞かせてくれよ、
結姫。あの言葉……。
高天原(ユメ)の続きだろ?これ……」
そんな彼の胸に、
結姫は迷わず飛び込む。
そして、「あの日」伝えた彼への想いを、
再び口にする。
その言葉を聞いて、
彼は嬉しそうに微笑んだ。
「……あの、どうして……。
隆臣……?隆臣くん……?」
不思議そうに問いかける結姫に、
彼は両方だよ、と言って笑う。
「助けてもらった。……女の人に」
「え……?」
「思兼神(オモイカネノカミ)、だっけか……。
あのとき……、死を覚悟した瞬間に、
あの人が現れたんだ……。そして言われた。
生きなさいって。『私の生命(いのち)のエネルギーを使って、
生きなさい』って……」
高天原の肉体はもう存在しないけれど、
魂だけは死なせはしないと、
中ツ国で生きなさいと、
そう言われたのだと、隆臣は語る。
(鳴女さん……)
きっと彼女が、
助けてくれたのだ。
まさに命がけで、
隆臣を助けてくれたのだ。
「オレの中には、ふたりの隆臣が生きてる」
深く噛み締めるように口にした隆臣に、
結姫はふと、
素朴な疑問をぶつける。
「じゃあ……、二重人格……?」
すると、呆れたような声が返ってくる。
「あのな、オレは結局、成長すると『オレ』なの。
同じことなの!」
そして、それより、と言って桜を指さす。
「桜が咲くころに戻ってくるって言ったろ?」
「聞こえなかったもんっ!」
隆臣くんが転校したあの日。
車に乗った彼が、
結姫を振り返って言った言葉。
「『桜』しか聞こえなかなったもんっ!」
拗ねたように叫ぶ結姫を、
彼がぎゅっと抱きしめる。
そんな彼に向かって、言葉を紡ぐ。
「背、伸びたね……」
「ああ」
「肩、広くなったね……」
「ああ」
「声、変わったんだね……」
「……ああ」
(でも、私はこの人を知っている……)
「おかえりなさいっ……!!」
結姫は精いっぱいの愛を込めて、
彼を抱きしめた――。