【タカマ二次小説】陽光の届かぬ塔の雲雀#13 破壊を司る者
彼が自分の目の前に舞い降りてきた青い勾玉を、手にした途端。
部屋の様子が一変した。
彼を閉じ込めていた強固な檻が、まるで魔法のように一瞬で消えた。
それと同時に、彼の背中には真っ黒い翼が生えて、
口には鋭い牙が生えている。
「サンちゃん……?」
すっかり変わってしまった彼は、見たこともないほど、
冷酷で不敵な笑みを浮かべている。
(サンちゃんじゃないっ……!?)
あまりの変わりように驚いたのは、私だけではなくて、
お父様もわなわなと震えていた。
「結界が壊れた……!?ばかな……。
自由に動けるはずはっ……!!」
そして、いったい何を思ったのか、
お父様はいきなり私の体を引き寄せて、
私の喉元に短剣を突きつけた。
(お父様っ!?)
驚く私に構わず、お父様は「闇(バケモノ)」に告げる。
「天照にもおまえにも、この世界は渡さんっ!!
おまえは私の命令だけを聞くのだ。さもなければ……っ!!」
さもなければ、私を殺す。
お父様はそう言って、彼を脅す。
私には、もう何がなんだかわからない。
「全てを手に入れるためには、なんでもやる。そうやって……、
自分自身を滅ぼしていることになぜ気づかぬ……!?」
怒り心頭といった様子で近づいてくる彼に、
お父様は負けじと激高する。
「黙れっ!!」
そして、握っていた短剣を彼に向かって勢いよく振り下ろした。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
私は悲鳴を上げて、目をそらす。
けれど次の瞬間、聞こえてきたのは予想外の声だった。
それはまるで、断末魔のような、お父様の悲鳴。
私が驚いて顔を上げると、
彼に触れたはずのお父様の体が、
まるで砂のように崩れ去っていく。
「お父様ぁっ!?」
やがて、お父様の姿は跡形もなく消え去り、
床にはお父様とは似ても似つかない、
砂の山が残される。
お父様が懐に入れていたと思われる神華鏡が、
カラン、と大きな音を立てて床に落ちる。
「ツ、月読さまが、砂みたいに……」
「バ、バケモノだっ!!!!!」
「逃げろぉっ!!!!」
あまりの事態に従者たちも騒然となり、
やがて我先にと逃げ出していく。
私はただひとり、足がすくんで動けなかった。
なんとか、震える手で床に落ちた神華鏡を拾い、
力なく呟く。
「おとう、さま……」
(こうなったのも……)
「……すべて、お父様自身のせいです……。
どうして、何もかもを望まれたのです……?」
静まり返った部屋で、私の声がやけに響く。
それまでずっと、その場に留まっていた彼が、
まるでその声に反応したかのように、
踵を返そうとする。
「待ってっ!!どこへ行くの!?」
「天珠宮へ……」
彼が虚ろな声で呟き、
そのまま部屋を出て行こうとする。
「待ってっ!!結姫さんはどうするの!?
私は何のためにあなたを諦めたの……!?」
彼の耳に、私の声は届いていないのか、
彼は足を止めることなく、
階段を昇って地下を脱し、地上階へ出る。
そしてそのまま、背中に生えた真っ黒い翼を羽ばたかせ、
空へと飛び立ってしまった。
必死に後を追おうとした私は、
廊下でつまずき、床に倒れ込む。
「待って……。行かないでっ!!!」
私の声は、誰もいない廊下に、虚しく響く。
打ち所が悪かったのか、
それとも、あまりにもショッキングな出来事が続き、
頭がショートしてしまったのか。
私の意識は、次第にどこか遠くへと運ばれていった――。