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【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#9 幻惑の面影
中ツ国。
颯太は放課後の廊下を図書室へ向かって走る。
「遅れてごめんっ!!」
ガラッと扉を開けたその先で、
仲間たちが一斉に振り返る。
「おせーぞ、颯太っ!」
泰造が真っ先に口を開き、
結姫も何かあったの?と首を傾げる。
「あ、うん、ちょっと……」
曖昧に言葉を濁す颯太に向かって、
一人の少年がくすくすと笑う。
「相変わらずどんくせーな、おまえは」
その顔が、「夢」で出会った彼女と重なって見えて。
その美しい金色の髪が、勝ち気で生意気そうな顔が、
重なって見えて。
不意に、彼女と出会ったときに感じた、
甘い香りが脳裏に蘇って。
胸をキュッと掴まれたような気がして、
颯太は慌てて眼鏡を外す。
「よ、余計なお世話だよっ!」
そう言いながら、ポケットからハンカチを取り出して、
レンズの曇りを入念に拭き取る。
そして、気を取り直して本題に入る。
「――オレ、思ったんだけど、結姫はともかくさ、
圭麻が勾玉の力を使いこなしてるなって……」
颯太の言葉に、そういえばそうだと、他の面々も頷く。
いったいどうやっているのかと尋ねれば、
勾玉に刻んである文字を唱えているだけなのだと答えが返ってくる。
「オレのこれは、中ツ国の文字では『理(ことわり)』にあたります。
これを唱えているだけですよ」
圭麻がかざした勾玉には、
確かに文字のようなものが刻まれている。
慌てて互いの勾玉を見比べてみれば、
それぞれに異なる模様が刻まれていた。
「よし、そうとわかればオレたちもっ……!行くぞ、那智っ!!」
「おうっ!!泰造っ!!」
泰造と那智が威勢よく、
勾玉を持った手を高らかに掲げる。
しかし彼らは、そのまま言葉を発することなく固まった。
そして、数秒の後、ふたり一斉に振り返る。
「なんて読むんだ、これっ……」
コントのような展開に、
その場で見守っていた全員が崩れ落ちる。
慌てて体制を立て直した颯太はすかさず、
金髪の少年に向かって言い放つ。
「こんなのも読めないのかよ、だっせ~!!」
さっきどんくさいと笑われた仕返しだ。
しかし、彼も負けじと言い返す。
「うっせーなっ!オレはおまえと違って夢があんのっ!
学校に行ってる暇なんかあるかよっ!」
夢?と聞き返してみれば、彼は誇らしげに語る。
「都で一番の踊り子(ドール)になることっ!!
それがオレの夢なんだっ!」
「へえ~っ!?すご~いっ!ねえ、今度踊ってみせてっ!」
目を輝かせた結姫に、彼がにっと笑い、
オレ、歌もうまいんだぜ、と威張る。
(歌と踊り、か……)
彼女が歌い踊る姿を思い描いた途端に、
わずかに胸が高鳴った気がして、
颯太は慌てて首を振る。
(なに、期待してんだよ……)
彼女の笑顔が、甘い香りが、再び胸を満たそうとするのを、
颯太は必死に追い払う。
やがて、今日の作戦会議は終わり、
皆で一緒に校門を後にした――。