【タカマ二次小説】取り残された世界で君と見たものは#9 石の微笑とビターチョコレート
どれだけ、時間が経ったのだろう。
先ほどまで聞こえていた那智の嗚咽が、
聞こえなくなった。
颯太が那智の方を窺えば、
泣き疲れた様子の那智が、
ゆっくりと体を起こし、
乱れた髪を整える。
颯太と目が合った途端、
疲れ果てたその顔が、
にわかに歪んだ。
また泣き出すのかと思ったが、
予想に反して、彼女は笑った。
「これ以上泣いてても、仕方ないよな……」
そう呟いて、力なく笑う。
その笑顔が、
あまりにも似つかわしくなくて。
颯太は思わず、目を見張る。
「オレだけ泣いて、悪かったよ。ごめんな……」
そう言って笑う彼女の顔は、
全てが作り物に見えた。
まるで、
美しい仮面を上から貼りつけたかのような、
悲しい笑顔。
「那智、おまえ……」
それ以上、言葉が出なかった。
何を言えばいいかがわからず、
立ちすくむ颯太に向かって、
那智がいつもの調子で明るく応じる。
「なんか食おうぜ。腹へった」
そう言って席を立ち、
台所を物色し始める。
やがて、
見つけてきた紅茶とビターチョコレートを
テーブルに並べ出した。
「ほらっ、こういう時は糖分だ、糖分っ!!
甘い物食べてお茶でも飲めば、元気になるよっ!!」
そう言って、我先にとチョコレートに手を伸ばす。
そして、うわっ、と顔をのけぞらせた。
「このチョコ、苦すぎじゃねぇっ!?」
チョコなんだから、
もっと甘くしろよと呟きながら、
自分のティーカップに
砂糖をどっさり入れてかき混ぜる。
紅茶と言うよりはもはや、
砂糖水になってしまうのではないかと思えるほどの量に、
颯太は目を丸くする。
「那智、さすがにそれは……」
止めようとする颯太の言葉には見向きもせずに、
那智はそのままティーカップを口に運ぶ。
次の瞬間、再び、げっ、と声を上げる。
「やっばっ……。甘すぎて飲めねぇ……」
まるでコントのような展開に、
颯太は思わず吹き出してしまう。
「だから言ったのに。ほら、これでも飲めよ」
笑いをこらえながら、
ほどよく砂糖とミルクをブレンドした自分のティーカップを差し出す。
「おおっ、サンキュっ!!」
そう言ってティーカップを受け取った那智は、
勢いよく紅茶を飲み干していく。
まるで、心の中の癒えない渇きを、
必死に潤そうとしているかのように。