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【タカマ二次小説】夢で逢えたら(初版)#8 月華の小夜曲(セレナーデ)

結姫はお風呂から上がり、パジャマに着替えると、
急いで那智の待つ2階へと向かう。

2階のドアを開けた途端、
ひんやりとした夜風が、結姫の肌をなでる。

窓辺には、一足先にお風呂から上がった那智が、
座って外を眺めていた。

金色の髪がかすかに風になびいている。

「窓、開けてたんだ」

結姫の声に、那智が振り返る。

「結姫、見てみろよ!月がすげぇ綺麗なんだ!」

「どれどれ……。わぁ!ほんとだぁ!」

結姫も窓辺に座り、空を見上げる。

開け放たれた窓から入ってくる風は冷たかったが、
風呂上りの体には心地よかった。

しばらく月を見上げていた結姫は、
視線を那智に戻し、口を開く。

「ねえ、ひとつ聞いていい?」

「ん?」

「ずっと気になってたの。
……那智、颯太のことが好きなんじゃない?」

「え……?」

驚いて見返す顔には、答えが書いてある。

「……やっぱりそうなんだ」

「どうして・・・」

「うん。なんとなくね。
・・・もしかして、那智が中ツ国(こっち)に来たのも、
颯太と関係があるんじゃない?」

那智は答えない。
その代わり、洗い立ての結姫の髪に触る。

「……髪、伸びたな」

「え?……うん」
「ドライヤー、貸して。
オレがブローしてやるよ」

いきなり話題をそらされて、戸惑いつつも、
結姫は言われるままに那智にドライヤーを渡す。

那智は懐から櫛を取り出して、
ゆっくりとブローし始める。

結姫の、腰まである髪。

・・・昔の結姫はショートヘアだったから、
こうやって髪をいじることはなかった。

那智がいじっていたのは、
もっぱら颯太の髪だった。

高天原で神官をしていた彼は、
髪が長かったのだ。

おまけにそれは、那智が憧れるほど美しい、
亜麻色の髪だった。

その髪を梳いて結ってやるのが、
那智の楽しみだった。

「久しぶりだな。こうやって、誰かの髪を触るの」

「那智……?」

「アイツ、もう3ヶ月も帰ってこないんだ。
仕事、だってさ……」

どこにいるのかもわからない。
逢いに行きたくても逢いに行けない。

……もうずいぶん、颯太の髪を触っていない。

「オレ……、もう我慢できなくなって……。
圭麻に頼み込んだんだ。
夢でもいいから、中ツ国でもいいから、
颯太に逢いたいって・・・」

圭麻は当然、断った。
那智の身が危険だからと。

でも、那智は引き下がらなかった。

根負けした圭麻が貸してくれたのが、
あのオカリナだった。

「そっか……。本当に好きなんだね……」

「うん……」

ブローが終わると、
結姫が思いついたように立ち上がる。

そして引き出しから何やら紙切れを2枚取り出した。

「これ、那智にあげる」

「え?」

「抽選で当たったの。遊園地、ペア御招待!
これ、那智にあげるから、颯太と一緒に行っておいで」

「でも、結姫は……」

「私はいいの。いつでも行けるんだから。
那智には時間がないんでしょう……?
ほら、今から颯太に電話して、デートに誘おうよ」

「で、デートぉ!?」

戸惑う那智を引き連れて、
結姫は電話のある居間へ降りる。

「ちょっと待てよ!デートって……。
アイツがオレのこと、どう思ってんのかもわからないのに・・・」

それどころか、嫌われたかもしれない。
嫌なのか、という颯太の声が耳に残っている。

言いよどむ那智に、結姫が微笑む。

「大丈夫だよ。ほら、勇気出して。
黙ってても何も始まらないよ」

「……そうだよな。黙ってても何も始まらないよな……。
よ~し、アイツをデートに誘ってやるぞ~!!」

さっきまでの弱気はどこへやら、
元気良くそう言うと、

那智は居間のドアを開ける。
そのときだった。

(え……?)

目の前が急に暗くなる。

倒れそうになるのをこらえ、
壁に手をついてしゃがみ込む。

「那智!?どうしたの!?」

「平気。ちょっと立ちくらみがしただけだから」

「ほんとに大丈夫?」

「だいじょぶだって。大したことないから」

それより、と那智は電話を指差して笑う。

「コレ、どうやって使うんだっけ?」

「そっか。高天原(むこう)には無いもんね。
あたしがかけてあげるよ。颯太が出たら、那智に代わるから」

そう言って、結姫がボタンをプッシュする。
那智はその様子を黙って見つめていた。


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