【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#13 カルボナーラは蜜の味
「ねえ、パパっ!パパってばっ!!」
神王宮からほど近い家の自室で物思いにふけっていた颯太は、
少年の声で我に返る。
休日返上で書棚の整理をしていたら、
懐かしい手帳を見つけて、
つい想い出に浸ってしまった。
「ごはんだよ!ねえ、早くっ!」
急かす声に連れられて、慌てて居間に向かえば、
出来立てのカルボナーラの濃厚な香りが漂ってくる。
「ママっ!パパ連れてきたよっ!」
少年が駆け込んだその先に待つのは、
金色の髪が美しい踊り子(ドール)。
料理はあまり得意ではなくて、
今日のランチもきっと、
出来合いのソースを使った簡単レシピ。
それでも、茹で具合や隠し味にこだわっているのを知っているから。
ものぐさでドジなくせに、
そういうところにはやけにこだわるのを知っているから。
今日はどんな味がするだろうと、
颯太はフォークを皿に伸ばす。
「うまいっ……!」
だろぉ~?と得意げに微笑んで、
那智もフォークを口に運ぶ。
「ねえ、ママ。ママはいつからパパのことが好きなの?」
突然の問いに、颯太と那智の手が止まる。
「――優(ユウ)の知らないずう~っと前からだよ」
那智の答えに、優(ユウ)と呼ばれた少年は、
そんなの当たり前じゃん、と返す。
「僕が生まれる前に出会って、好きになって、
それで僕が生まれたんでしょ?そうじゃなくてっ……。
あの子守歌、いつからパパのために歌うようになったの?
ふたりは子どもの頃からなかよしだったの……?」
子守歌は子どものために歌うもの。
そう信じて疑わない少年に、那智が柔らかく微笑む。
「あの歌はもともと、墨頭虫(カーボン・ヘッド)の子どもたちのために歌ったんだよ。
たまたまそこに、パパがいたの」
「じゃあママは、パパのために歌ってたわけじゃないんだ」
「最初はね。でも、パパがママの歌好きだっていうから」
いつの間にか、パパのために歌うようになっちゃった、
と那智が照れ臭そうに笑う。
「あの時のパパ、カッコよかったんだよ。
誰よりも先に、自分が伝説の謎を解き明かすんだって言ってさ」
そんなのは初耳だ。
確かあの時はまだ、
那智は隆臣のことが好きだったはずで。
「じゃあ、ママはその時からパパのことが好きなの?」
興味津々に尋ねる少年に、
那智はさあ、どうだろうねぇと笑う。
食事が終わり、
少年が怪獣のおもちゃで遊び始めたのを見計らって、
真相を尋ねてみれば、
那智ははにかんだように笑う。
「カッコいいと思ったのはホント。
でもいつから好きなのかはわかんないよ。だってあの時はまだ……」
言いかけた彼女の体を引き寄せて、
口づけを交わす。
彼女が何を言おうとしたのかなんてわかっている。
だけど今、その続きを聞きたくなんかなくて。
ただひたすらに、深くて甘いキスをする。
それはまるで、蜜のように芳醇なカルボナーラの味だった――。