![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/157692473/rectangle_large_type_2_f23dc5858445cd260b5323e6440e728a.png?width=1200)
【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#88 憂いの音色
それからというもの、
美舟は毎日のように座敷に上がっては、
胡琴を習うこととなった。
美舟の才を見出した
当代の漆黒の奏者(ハル・シテナ)、
朱鷺江は魂鎮めの務めに忙しく、
代わりに彼女の姪、
柊が美舟の手ほどきを請け負った。
きょうだいのいない柊は、
美舟を実の妹のように可愛がり、
美舟もまた、彼女を
「姉様(あねさま)」と呼んで慕った。
やがて、三月(みつき)もしないうちに、
美舟は基本はおろか、
難易度の高い技までもこなすようになり、
柊はその覚えの良さに舌を巻く。
しかし、何よりも柊の目を引いたのは、
美舟が見せる、胡琴への無垢な愛だった。
「おまえは、
本当に楽しそうに弾くのだな……」
思わず呟けば、
美舟はきょとんとして問い返す。
「姉様も、好きだから
弾いているのでしょう……?」
そんな彼女に向かって、
柊は澄ました顔で答える。
「私はただ、
必要だからやっているだけだ……。
御影家に生まれた巫女たるもの、
楽の才も磨かなければならぬ……」
いずれ、この村で最高位の巫女、
暁降の巫女(テル・アシナ)を継ぐ者として、
漆黒の奏者(ハル・シテナ)が奏でる魅惑的な楽器、
胡琴にも触れておいた方が良いと
思ったまでだと、柊は語る。
「そう、ですか……。私は、好きです」
そうであろうな、と
柊が頷こうとしたとき、
美舟はとびきりの笑顔を向ける。
「姉様の弾く音色が好きです」
「私の、音色が……?」
「はいっ!凛としていて、すごく綺麗だものっ」
屈託の無い顔でそう笑う。
「そう、か……。それは、ありがとう……」
(いずれこの娘が……、
漆黒の奏者(ハル・シテナ)を
継ぐというのか……)
ただひたすら、魂羅川のほとりで
孤独に胡琴を奏で続ける、
哀しき定めを持った巫女。
ただそれだけのために、生きる巫女。
(その笑顔が、曇らねばよいが……)
柊は、嬉々として
胡琴に向かう美舟を見つめる。
己の憂いが杞憂に終わることを願いながら、
彼女の奏でる胡琴の音に耳を傾けた――。