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【タカマ二次小説】陽炎~玉響の記憶~#9 泡沫(うたかた)の仮面

その翌日の放課後。

教室に残ってテスト勉強を
していた颯太のもとに、

F組の圭麻がやってきた。

颯太が貸していた社会の教科書を
返しにやって来たのだ。

用を済ませて、
すぐに帰ると思いきや、

彼は教室のゴミ箱に目を留めると、
急に目を輝かせ始める。

「いいツヤしてますねぇ、このポリ袋。
……あ、このペットボトルも何かに使えそうだ。
あと、これとこれを組み合わせて……」

すっかりゴミ箱の前に陣取り、
ずっとゴミを漁り続ける彼に、

颯太が呆れて呟く。

「……おまえ、相変わらずだな」

圭麻のゴミ収集癖は
今に始まったことではない。

もったいないという精神は
理解できるが、

ゴミ箱を漁ってまで
それを実現しようとする姿勢は、

到底真似できない。

「颯太だって相変わらずじゃないですか。
こんな時間まで勉強してるなんて」

「テストが近いからな。
家よりも学校の方がはかどるし」

「あんまり頭ばっかり使ってると、
体に毒ですよ」

「誰がいつ捨てたかも知れないゴミを
漁るよりは、はるかに健康的だよ」

たわいない会話を交わしながら、

颯太は計算問題の
答え合わせをしていく。

ノートには次々と
赤丸が記されていく。

颯太にとって、
数学は好きな教科の一つだ。

与えられた情報と
既習の知識を駆使して、

あらゆる角度から
たった一つの答えを導き出す。

……恋愛ごとにも、「公式」と
「唯一無二の正解」があったなら、

どんなに楽だろう。

(ま、「公式」が通用するなら
誰も苦労はしないか……)

颯太は苦笑混じりの
ため息を漏らす。

たとえ恋愛に
「公式」があったとしても、

それが通用するほど
単純な話ではないのだ。

ゴミ、もといリサイクル用品を
持ち帰り用の袋に詰め終えて、

圭麻が颯太の席の向かいに座る。

「ため息、これで7回目ですよ。
……何か、悩みでもあるんですか?」

「おまえ、数えてたのか」

驚いて問うと、圭麻は、

颯太があまりにも
ため息ばかりつくものですから、

と言って穏やかに笑う。

自分がどれほど
ため息をついていたかなんて、

人に言われるまで
気づかないものだ。

「恋の悩み、ですか?」

「まあな……」

圭麻には全て
お見通しのような気がするから、

否定はしない。

とは言え、
詳しく話す気もなかった。

だが、そんな颯太の気持ちには
お構いなしで、

圭麻がさらりと口にする。

「本当に好きなんですね、
那智のことが」

その一言に、
颯太は目を丸くする。

それはあまりにも突飛で、
単刀直入にもほどがある。

二の句が継げないでいる
颯太に対し、

圭麻がにこりと笑う。

「お似合いだと思いますよ。
高天原でも、中ツ国でも」

圭麻の冗談は笑えない。

照れて良いのか、
否定すればいいのかが

わからない。

颯太は、
自分に言い聞かせるように呟く。

「オレは……、"和泉那智"が
好きなわけじゃない……」

そのセリフは、
二人以外誰もいない教室に、

やけに大きく響いた。

「オレが好きなのは
"アイツ"じゃないんだ……」

噛み締めるように、
颯太はもう一度口にする。

(オレが好きなのは……)

逢いたくて逢いたくて
たまらないのは――。

「"高天原の那智"、ですか……?」

颯太は頷く。

外では、いつのまにか、
また雨が降り始めていた。


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