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【タカマ二次小説】取り残された世界で君と見たものは#14 禁域に施された鍵

「え……!?天珠宮に行きたい……!?」

すっかり日も暮れ、
夜の帳が下りた頃。

突然の那智の申し出に、
伽耶は目を丸くする。

仕事を終えて自室に戻り、
一息ついていた伽耶のもとに、

那智がやってきたのは、
ほんの数分前のこと。

部屋をノックされ、
話したいことがあるのだと言うから、

彼女を部屋に入れ、
テーブルに着くように促した。

けれど彼女は、
座ることはせず、

立ったままで
上記の話を切り出したのだ。

もう一度天上界に行きたいと。
今度こそ、天珠宮に行きたいのだと。

だから、
連れて行ってほしいと。

「なあ、頼むよ。オレたちも天珠宮に行きたいんだ。
行って、結姫に、『太陽をつなぎとめる樹(アクテイ・グローブ)』に
会いたいんだ……っ!!」

天上界でたった1本、
生きている樹木。

天珠宮を支えるように
立っている巨木。

中ツ国からやってきた伝説の少女、

「地平線の少女(ホル・アクテイ)」の化身とも言うべき
その樹に会いたいのだと、

そう訴える彼女に背を向けて、
伽耶は暗い窓の外に目を向ける。

都(リューシャー)にそびえ立つ神王宮。

その高い塔の最上階に位置する
この部屋よりも、

はるかに高い天空の城は、
一般の人間には開かれていない。

ごく限られた人間しか、
行くことのできない閉ざされた居城。

「伽耶さんっ!いえ、伽耶様っ!!お願いです。
オレたち、今のままじゃ、動けないっ!!
ずっと同じところに突っ立ったままなんだっ!!
ずっと同じところで、壊れたように踊ってるだけなんだっ!!
現実から目を背けて、虚ろに笑ってるだけなんだっ!!
そうじゃなくて、ちゃんと向き合いたいんだよ!!
少しずつ、歩いて行きたいんだっ!!
だからもう一度、あの場所に行きたいっ!!
あの場所に行って、あの時には行けなかった天珠宮に行って、
結姫に会いたいんだっ!!」

必死に訴えかける彼女の言葉が、
伽耶の心を揺さぶる。

もう一度、あの場所に行く。

伽耶ですら、あれ以来、
めったに足を踏み入れてはいないあの場所に、

彼らを連れて行く。

それは伽耶にとっても、
まるで自分を試されているかのようで、

勇気がいることだった。

伽耶は彼女に向き直り、
ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「もしかしたら、
今よりももっとつらくなるかもしれないわ……。
それでも、いいの……?」

恐る恐る投げかけた言葉に、
意外な言葉が返ってくる。

「そんときはそんときだよ。
どうしてもつらかったら、泣けばいい。
けど、今のままじゃオレたち、
まともに泣くことすら、できないんだよ」

苦笑交じりに
切実な思いを吐露する彼女の顔が、

胸に刺さる。

「わかったわ……。
あなたたちが天珠宮に行けるように、
天照様に掛け合ってみるわ……。
だから、少し時間をちょうだい」

世界が危機に瀕し、

彼らが天ツ神として
地平線の少女(ホル・アクテイ)を支えていた頃とは違い、

今や勾玉を失って
一般人となった彼らを、

気安く天界に上げることはできない。

だから、
よしなに取り計らうための時間がほしい。

そう伝えると、
那智は「わかった」と頷いた。

「よろしく頼むぜ、伽耶姫様っ!」

そう言って元気に一礼し、
そそくさと部屋を出て行く彼女の姿を見送った後、

伽耶はおもむろにポットに手を伸ばし、
お気に入りのティーカップにお茶を注ぐ。

そしてゆっくりとソファーに身を沈めた。


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