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【タカマ二次小説】月と星のセレナーデ#5 オリオンとアルテミスの恋路(最終話) 

自室に戻った颯太は、
スマホの通知を見て驚く。

「今日!?しかも、待ってるって、
いつからだよ!?」

――今日なら良いよ。神代公園で待ってる――

那智からのメッセージが届いたのは、
今から2時間も前。

慌てて電話をすれば、
早く来いと急かされる。

「何も外で待ってなくても・・・・・・。
家に行くって言ってるのにっ・・・・・・」

ぼやく颯太に、

電話の相手は「思い出の場所だから」と
短く告げる。

(思い出の場所・・・・・・)

神代公園。

そこは颯太にとっても
思い入れの深い場所だ。

かつて、那智と一緒に星を見た場所。

彼と会うには確かに持って来いだと、
そんなことを思う。

たどり着いてみれば、

寒そうに体を縮こまらせた那智が
仏頂面で視線を向ける。

「――話って何だよ」

「あ、いや、本当は、
明後日にと思ってたんだけど・・・・・・」

息を切らせながら口ごもり、
鞄を漁る。

「あの、これ・・・・・・。
2日早いけど、誕生日おめでとう」

小さな包みを手渡せば、

那智は口をあんぐりと開けて
目を見開く。

「え、まさか、だから、27日っ・・・・・・!?」

颯太の顔と手のひらの包みを
見比べながら、

那智が呟く。

「そ。喜んでもらえるかわからないけど、
精一杯選んだから、開けてみてくれないか・・・・・・?」

颯太の言葉に促されて、

那智がリボンをほどき、
包みを開ける。

そこには、小さな三つ星が横に並んだ
美しいピアスが入っていた。

男女どちらがつけても不自然ではない、
ささやかで精巧なシルバーのピアス。

「オリオン座の三つ星をあしらったピアス。
那智に似合うと思って」

選んだ理由は、
それだけではない。

那智に似合うアクセサリーは
他にも山ほどあった。

だけど、あえてこれを選んだのには
別に理由がある。

「なんだ・・・・・・。誕生日か・・・・・・」

那智が力の抜けたような笑いを浮かべる。

「――なあ、颯太。昨日の女性、誰・・・・・・?」

表情の読み取れない声で、
那智が尋ねる。

「え・・・・・・、だから、従姉だって・・・・・・」

「なんで従姉とイブに会うんだよっ!?
昨日は塾だって言ってただろっ!?」

不意に感情的になった那智に
戸惑いながらも、

颯太は事実を告げる。

「いつもはバイトで忙しいんだけど、
急に昨日、暇になったって聞いたから・・・・・・。
オレ一人だと、おまえへのプレゼント、
何選べばいいか、わからなかったし・・・・・・」

「じゃあなんでオレを誘わなかったんだよ!?
オレへのプレゼントだったら、
オレに聞くのが一番早いだろっ!?」

「それは、そうだけど・・・・・・。
でも、驚かせたかったし、それに・・・・・・」

「それにっ・・・・・・!?」

食ってかかるような那智に、

颯太は迷いながらも
胸の内を告げる。

「おまえには、
予定があると思ってたから・・・・・・」

イブは軽音楽部のヤツらと
合コンだろ、と呟けば、

那智が心外とばかりに喚く。

「あれはっ!単に恋人がいないメンバーで
バカ騒ぎしてるだけで、
合コンなんかじゃねーよっ!」

「――表面上はな。
実際には合コンのようなものだって、
部員から聞いた。女子は大抵みんな、
おまえを狙ってるって」

「そんなの、知らねーし。
なんでそんなデマ、真に受けるんだよ」

睨む那智に、
知らないのはおまえだけだと、
溜息を漏らす。

「みんな、おまえに憧れてんだよ。
文化祭だって、おまえの出番直前は
体育館前に長蛇の列ができてたし、
本番中も人が多すぎて死ぬかと思った」

熱狂する女子の視線を
一身に集め、

ステージ上でまばゆいライトを浴びて
輝く那智が、

ものすごく遠く思えて。

手を伸ばしても届かない
アイドルのようで。

だからこそ、
昨日も誘う勇気が持てなかった。

でもだからこそ、
せめて誕生日には、

プレゼントを渡したかったのだ。

颯太の存在を意識してもらえるような、
何か特別な贈り物を。

「オレにとって、那智は月だから」

唐突に何を、とでも言いたげな那智を
真っ直ぐに見つめる。

「真っ暗な夜空に輝く、綺麗な月だからっ――」

存在感だけはやたらと大きいのに、
絶対に掴めない。

見る度に色も形も
高度も変わっていって、

けれどどんな姿でも
必ず颯太の心を鷲づかみにする。

「気づけばどんどん、好きになってく・・・・・・。
でもオレは、ちっぽけな星だから・・・・・・」

月の光に霞んで見えなくなる、
小さな小さな星屑だから。

「那智にとっては、
どうでも良い存在かもしれないけど、
それでも、忘れてほしくないからっ――」

いつも、覚えていてほしいから。

だから、あえて月ではなく、
星をモチーフにしたピアスを選んだ。

月の女神アルテミスに恋したオリオンを、
覚えておいてほしいから。

「――だったら、掴んどけばいいじゃん」

そんな言葉とともに、
小さな包みが放り投げられる。

颯太は慌ててキャッチして、
那智の方を見る。

「それ、オレからのクリスマスプレゼント。
――開けてみれば?」

ぶっきらぼうに呟く那智の言葉に促され、
包みを開けてみれば、

銀色の懐中時計が姿を現した。

「え、これ・・・・・・」

文字盤に彫られた細やかなデザイン。
それは、とても美しい月だった。

「そんなに好きなら、掴めばいいじゃん。
――誰かに盗られる前に」

「――那智」

「オレ、好きだよ。このピアスも、
おまえのことも。だからっ――」

掴んどいてよ。

そう訴える声に、
真っ直ぐ見つめてくる瞳に、

心をぎゅっと掴まれる。

「――わかった」

颯太は軽く深呼吸すると、
那智の腕を掴んで、

その体をゆっくりと引き寄せた――。


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