![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/157694886/rectangle_large_type_2_c93a7136dd29e737649619c688f787d3.png?width=1200)
【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#91 天に架かる虹のように
中ツ国。
全国中学校合唱コンクールの全国大会。
プログラムの7番目にエントリーされた
神代中合唱部の部員たちは、
出番を目前に控え、
舞台裏で顧問の三河千夏の言葉に耳を傾ける。
「いいですか。これが最後の舞台です。
一人はみんなのために、
みんなは一人のために。
それぞれが、伝えたい人に、
伝えたい想いを届けられるように。
みんなで力を合わせて、
最高の歌声を響かせてちょうだい」
顧問の言葉に背中を押され、
那智は仲間とともにステージへと進む。
まるでそこは、漆黒の闇に浮かぶ、
光まばゆい異世界のようだ。
(ああ、まるで天珠宮だ……)
不意に、そんなことを思った。
世界が闇に閉ざされたあの日、
天照の住まう天珠宮だけが、明るく光り輝いていた。
――伝えたい人に、伝えたい想いを
届けられるように――
顧問の声が脳裏に響く。
(オレの想いを、伝えたい人……)
少し前まで、颯太にしようと思っていた。
顧問の三河千夏は常々、
「歌を通じて想いを伝えたい相手を必ず一人、
思い描くように」と話していたから。
家族でも、友達でも、恋人でもかまわない。
必ず部員一人一人が、
「想いを伝えたい相手」を決めて、
その人に向けて歌うようにと。
――皆が同じ人を思い浮かべる必要はありません。
それぞれが違う人を思い浮かべたってかまわない。
けれど、その人に想いを伝えるためには、
ちゃんと届けるためには、自分一人の力ではだめなの。
皆で力を合わせなければ、伝わらない――
だからこそ、一人はみんなのために、
みんなは一人のために。
部員一人一人が、
伝えたい相手に、歌を、想いを、
届けるために。
部員一人一人が、それぞれの心に寄り添い、
声を合わせ、歌うのだと。
それぞれが思い浮かべる、
ただ一人のために、
みんなで力を合わせて歌うのだと、
顧問はそう語っていた。
(なあ、オレ、“おまえ”に向けて歌うから――)
那智は自分とよく似た少女の姿を思い浮かべる。
壇に上がり、自分の立ち位置で止まると、
皆が並び終えたのを待って、
一斉に指揮者の方へと視線を向ける。
(精いっぱい、歌うから――)
だから、届いてほしい。
「彼女」を闇に突き落とした張本人が、
自分であるのなら。
光だって、届けてみせるから。
(オレ一人じゃ無理だけど……)
でも、みんながいるから。
仲間がいるから。
(だから、どうか――)
届いてほしい。
彼女に降り注いだ雨が、冷たいその涙が、
美しい虹に変わりますように――。