
【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#80 欠片の在処とスケープゴート
翌日の朝早く。
那智は再び、胡琴の音に目を覚ます。
歌うように響くその音色は、
まるで何かを訴えかけるようで。
那智は布団から身を起こし、辺りを見回す。
空はまだ薄暗く、
圭麻も泰造も気持ちよさそうな寝息を立てている。
――欠片……。早く、欠片を……――
脳裏に、橋姫の声が蘇る。
颯太の姿をした橋姫の声。
颯太を苦しめる、鬼女の声。
――頼むから、早くっ……、欠片をっ……――
誰が何と言おうと渡すなと、
颯太にはきつく言われた。
圭麻からも強く念を押された。
(だけど……)
本当に、あんな小さな欠片で、
世界が滅ぶのだろうか。
あんな美しい欠片ひとつで、
滅んでしまうのだろうか。
それがもし、本当だとしたら、
この村の人間は、屋敷の重鎮たちは、
世界の滅亡に加担していることになる。
(そんなことって、本当にあるのか……?)
那智には、よくわからない。
むしろ、自分たちが心配しすぎなのではないかと、
そんな気さえしてくる。
もしも、そうだとしたら。
(欠片さえ渡せば、颯太は助かる……)
欠片さえ渡せば、
橋姫は「自分を生み出した過去の自分」を抹殺し、
そして彼女自身も消え果てる。
そうすれば、颯太は助かるのだ。
(ついでに、オレのことも消してもらおうかな……)
那智はそろそろと布団から這い出て、
寝ている泰造に近づく。
そして、布団の周りに無造作に置かれた、
彼の荷物を物色する。
けれどどこにも欠片は見当たらなくて、
そうだとすればと、寝ている泰造の毛布をめくる。
屈強な胸元に光る欠片を見つけて、
那智はそっと手を伸ばす。
次の瞬間、寝ていたはずの泰造と目が合った。
「何のつもりだ……?」
何でもないと、慌てて目をそらす那智に、
泰造は釘を刺すように言葉を紡ぐ。
「欠片は渡さないぜ。
これで颯太が助かるとも、オレは思わねぇし」
「――じゃあ、どうすればいいんだよっ……!?」
泣きそうな声で叫べば、
泰造が起き上がり、
まいったなと言いながら頭を掻く。
「それがわかれば、誰も苦労はしねぇよ……。
でも、おまえがこの欠片を奪って、
橋姫に渡すのだけは間違ってる。
それは何としても、オレが阻止する」
「――わかった……」
那智はそう言うと、すくっと立ち上がり、
廊下にダッシュする。
「って、おいっ!どこ行く気だよっ!!」
慌てて追いかけてくる泰造を躱して、
母屋へと続く廊下に躍り出る。
「那智っ!!」
泰造の声に、圭麻の声も重なる。
ふたりの声から逃げるように、
那智はすばやく目的地へと向かう。
やがて、出迎えた人影に、
ここに置いてほしいと訴える。
朝も昼もずっと、
そばにいさせてほしいと――。