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【タカマ二次小説】取り残された世界で君と見たものは#26 想い歌

不意に、歌が聴こえた。

その声は、
巨大な樹の幹を伝わって空へと舞い上がり、

まるで見えない光のシャワーのように、
泰造の身に降り注ぐ。

まるで、樹が歌い、空が歌い、
大地が歌っているように思えた。

美しい讃美歌のように響くその歌声は、

空の彼方から、
愛しい人の面影を連れてくる。

泰造は迷わず、
宙に向かってその名を紡ぐ。

「鳴女さんっ……」

彼女の姿が、愛しい彼女の姿が、
目の前に舞い降りた気がした。

これは幻なのだとわかっているのに、

確かに彼女がそこにいる気がして、
泰造は手を伸ばす。

「鳴女さんっ……」

(ようやく、逢えた……)

そんな気がした。

触れられるはずのないその手に、
わずかなぬくもりを感じて、

泰造の心が震える。

そんな泰造に、
目の前の幻影もまた、
感極まったように泣き笑う。

――……泰造さんっ……――

そんな彼女を、
泰造はしっかりと抱きしめる。

腕に収まった彼女の体は、透けていて、
生身の人間ではないけれど、

それでも確かに、
ほのかなぬくもりが伝わってきて、

泰造の目に涙が溢れる。

「鳴女さんっ……。
どれほどあなたに、逢いたかったことかっ……」

むせび泣く泰造に、
彼女が穏やかに微笑む。

――泰造さん。私はいつも、あなたのそばにいます。
あなたのそばで、あなたに逢えるのを、待っているんです――

どういう意味なのかと、
問うてもただ、穏やかに笑う。

そろそろ行かなければと、
そう口にして、

そして思い出したように、
言葉を紡ぐ。

――泰造さん。ひとつだけ、
お願い、聞いてもらえますか――

彼女を抱きしめる泰造の耳に、
彼女の声が、はっきりと届く。

――どうか、私を捜してください。
私、ひと目であなただと、わかりますから――

そして、泰造の腕を離れ、
空へと帰ろうとする彼女を、

泰造が慌てて呼び止める。

「鳴女さんっ……!待ってください!
あなたは、どこに……っ!?」

彼女は振り返り、
言ったじゃないですか、と言って微笑む。

――私はいつも、あなたのそばにいます。
あなたのそばで、あなたに逢えるのを、待っているんです。
だからどうか、私を捜してください。
私、ひと目であなただと、わかりますから――

それはまるで、生まれ変わるまでは、
ずっとそばにいるのだと、

だから生まれ変わった暁には、
必ず捜しに来てほしいと、

そう言っているように聞こえた。

泰造はようやく、
彼女の言葉に頷く。

「……わかりました。
オレ、必ずあなたを捜しに行きます。
いつでもまた、あなたに逢えるように……」

その言葉を聞いて、
彼女は嬉しそうに笑う。

そうして静かに、
空へと帰っていった――。


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