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【タカマ二次小説】それは蛍のように#21 帰還

「……颯太。オレ、中ツ国に帰るよ。
心配かけてごめんな」

殊勝に謝る那智を見て、

謝らなければならないのはどちらだろうかと
颯太は苦笑する。

高天原の自分がどんなに謝っても、
中ツ国での罪が消えることはない。

それを思うと、申し訳なさでいっぱいになる。

「中ツ国(むこう)のオレによろしくな。
……こっぴどく叱ってやって構わないから」

那智が颯太の言葉に笑って請け負い、

欠片に向かって
「中ツ国の鏡池」と唱えようとした瞬間だった。

――この私から逃げられるとでも思うのかい……?――

突然、橋姫の声が響き渡ったかと思うと、
鬼のような形相の橋姫が二人の目の前に現れる。

――逃がすものか……――

髪を振り乱し、口の裂けた老婆が、
真正面から二人に襲いかかろうとする。

颯太はとっさに護符を取り出し、呪文を唱える。

(せめて、時間稼ぎになれば……)

那智に逃げる隙さえ与えられたら。

そう願いながら唱えるのは、
相手の動きを封じる呪文。

長くは利かないが、
瞬間的な威力は絶大の魔法。

――お、おのれ、貴様っ……――

橋姫が怯んだ瞬間、颯太は素早く那智に囁く。

「早く、逃げろっ!!今のうちに、早く……」

「けど、颯太はっ……」

戸惑う那智に颯太が微笑む。

「オレは大丈夫。絶対に負けないから」

その言葉に、那智が念を押す。

「ほんとだな…?絶対の絶対だぞ……?」

「ああ。約束する」

その言葉に押され、那智が頷く。

そして、欠片が宿っているはずの右手を見つめ、
大きな声で叫んだ。

「中ツ国の鏡池へ……!!」

その瞬間、まばゆいほどの碧い光が辺りを包み、
やがて、那智を呑みこんでいった――。


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