
【タカマ二次小説】陽炎~玉響の記憶~#16 真実の欠片
ジェットコースターにお化け屋敷に
バイキングにフリーフォール。
心臓に悪いものばかりを
次々と選ぶ那智に、
颯太はついに
待ったをかける。
「頼む。ちょっと休ませてくれ……」
しょうがないなぁと、
那智が空いているベンチを探し出し、
ふたり並んで座る。
那智が買ってきた缶ジュースを
受け取ると、
颯太はそれをゆっくりと
喉に流し込む。
「あ~、生き返った……」
「……ったく、こんなんでよく、
オンナノコとデートになんか行ったよなっ……」
まだぶつくさ言っている彼の顔を、
横目で見やる。
ベンチに置かれたその手に、
触れたい衝動と臆病な自分が
小競り合いを始め、
負けた衝動とともに、
颯太は空っぽの左手を持て余す。
「黙ってて悪かったよ。
そのうち言おうと思ってたけど、
おまえ、部活忙しそうだったから」
言う機会を逃したと、
そう言って詫びれば、
那智は、まあ、いいけど、と呟く。
「オレだって、
おまえに言ってないことあるし……」
隣で空を見上げる彼の言葉を、
颯太はそっと拾い上げる。
「それなんだけどさ……。
もしかしておまえ、
高天原に行ったことがあるんじゃないか……?」
「えっ……?」
なんで知ってるんだと、
驚く彼に、
颯太はやっぱりそうかと頷く。
「おまえがオレとケンカして、
学校を飛び出して行ったあの日……。
おまえ、鏡池の前で、寝てただろ……?」
寝ていたというよりもむしろ、
気を失っていたに近かったと
記憶している。
「あの時、本当はおまえ、
高天原に行っていたんじゃないか……?
だからこそ、中ツ国(こっち)では気を失ってた。
違うか……?」
目を皿のようにして
颯太を見つめていた彼が、
やがて視線を逸らす。
「そうだよ……。オレはあの時、
高天原に行ってた……。
高天原(むこう)で、
“おまえ”と会ってた……」
だから、“あの女”が中ツ国(こっち)で
おまえと会ってたなら、
おあいこみたいなもんだけど、と
那智が呟く。
「けどさすがに、遊園地デートは
ずるいだろ……。
それも、3日も居座ってたとか、
タチが悪いぜ……」
オレはその間、
ずっと寝込んでたのに、と
那智がぼやく。
「高天原(むこう)のオレは、
元気だったか……?」
2週間前に、彼女に投げかけたのと
同じような問いを彼にぶつける。
「元気だったよ。なんだかっていう
神王宮の官吏になってて、
そんで高天原中を旅してた。
オレが変なとこで呼び止めちゃったから、
道草食っちまっただろうけど、
今頃はもう都(リューシャー)に
戻ってるんじゃないかな」
そこで言葉を切って、
那智が再び空を見上げる。
「“あの女”は、元気だったか……?」
ってか、何しに来たんだよ、“あの女”、
とぼやく那智に、
颯太は真実を告げる。
「元気だったけど……、
でも、寂しそうだった。
もうずいぶん長いこと、
“オレ”に会ってないって言ってた。
どんなに待っても帰って来ないって」
「え……?」
「前は頻繁に届いていた手紙も、
ぱったりと届かなくなったって。
都(リューシャー)を旅立って以来、
一度も帰って来てないって」
「何だよ、それ……」
嘘だろ、と那智が呟く。
「オレが“アイツ”と会ったのは、
もう2か月以上も前だぞ……?
なのに、なんでっ……」
そこまで口にして、
那智ははっと顔を強張らせる。
「まさか、“アイツ”っ……、
でも、そんなはずっ……」
「何か知っているのか……?」
颯太の言葉が、
まるで聞こえなかったかのように、
那智は独り言を繰り返す。
「だって“アイツ”、大丈夫だって、
絶対に負けないってっ……」
真っ青になって
そう繰り返す那智の肩を、
颯太は掴む。
「那智っ、いったい、何があった?
ちゃんと話してくれないかっ……?」
ようやく颯太の顔を見た那智が、
縋るような目で呟く。
「どうしよう……。オレのせいだ……」
そして、ぽつりとこぼした。
“アイツ”は
負けてしまったのかもしれない、と――。