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【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#11 亀裂

中ツ国。

神代中2年C組の教室で、

颯太は教室前方の壁に掛けられた
時計を見上げる。

そろそろ、
那智が登校してくる時刻だ。

颯太の予想通り、ほどなくして、
廊下を駆けてくる足音が聞こえる。

やがて、がらっと教室の扉が開かれ、
金髪の少年が教室に飛び込んできた。

ぜいぜいと息を切らしながら、
教卓の前に先生がいないことを確認し、
ほっとした表情を浮かべる。

「はぁ~。間に合ったぁ……」

安堵した顔で
自分の机に鞄を置こうとする彼に、

颯太はいつもの調子で話しかける。

「おまえ、お手伝いさんが家にいて、
ちゃんと世話してくれるのに、
なんでいつも遅刻ぎりぎりなんだよ」

「うるさいなぁ。こっちにだっていろいろあんだよ」

いろいろって何だよ、と突っ込もうとしたところで、

今度は逆に、
相手から話題を振られる。

いつもならここで、

他愛無いやりとりをして
お互い席に着くのだが、

今日は少し違っていた。

「それよりさぁ、おまえ、
昨日も教室に残って勉強してたのか……?」

「え?ああ、してたけど?」

なんでそんなこと聞くのかと、
颯太が首を傾げていると、

那智の口から思わぬ言葉が漏れた。

「圭麻も、一緒だったか……?」

「え……?一緒だったけど、
なんでおまえが知ってるんだ……?」

昨日はたまたま、
F組の圭麻に歴史の教科書を貸していて、

それを返しに来た彼が、
しばらくこの教室に居座っていたのだ。

しかし、それをなぜ那智が
知っているのだろう。

颯太が不思議に思っていると、

見る見るうちに、
那智の呼吸が変わっていく。

教室に滑り込んできた直後は
肩で息をしていた彼だが、

少しずつ落ち着いてきたように
見えていたのだ、
先ほどまでは。

しかしなぜだか、

那智の息遣いが慌ただしさを
取り戻していくように見える。

「おまえ、『あの女』が……、
『高天原の那智』が好きって本当か……?」

その瞬間、颯太は目を見開く。

それは、昨日の放課後、

この教室にいた圭麻だけに
打ち明けた真実。

彼以外の人間が
知るはずなどないのに、

なぜ那智の口から聞かされるのだろう。

颯太は顔面蒼白になりながら、
慌てて尋ねる。

「圭麻に、聞いたのか……?」

その言葉を発した途端、
那智の顔は今にも泣きそうなほど歪み、

次いで、これ以上ないほどの怒りとともに、
颯太に暴言を叩きつけた。

「バカやろうっ……!!」

那智は踵を返すと
一目散に教室を飛び出す。

「おいっ、待てよっ!!」

颯太は慌てて後を追いかける。

ホームルーム開始のチャイムが
学校中に鳴り響き、

廊下で担任とすれ違ったが、
那智はかまわず階段を駆け下りる。

その後を追う颯太は、
担任に那智を連れ戻してくると告げて、

懸命に走り続ける。

しかし、昇降口を飛び出し、
校門をくぐって最初の角を曲がったところで、

完全に姿を見失ってしまった。

(まいったな……)

よくよく考えてみれば、
昨日の今日なのだ。

圭麻はああ見えて口が堅い。

その圭麻から、
那智がすぐさま聞き出したと考えるのは、

不自然だ。

それよりは、昨日の放課後、
たまたま教室に立ち寄った那智に、

あの会話を聞かれてしまったと考える方が
自然だろう。

自分の好きな相手が、
高天原の那智なのだと、

「和泉那智」に
「高天原の那智」を重ねて見てしまうのだと、

打ち明けたあのときの会話を。

(一番、聞かれたくないことを聞かれた……)

颯太は電柱に手をついて、
ぜいぜいと息を吐く。

那智が怒るのは当然なのだ。

自分は、「自分の本当の気持ち」に気づきたくなくて、
「アイツ」に「彼女」を重ねているのだから。


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