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【タカマ二次小説】それは蛍のように#11 声

〔第11話〕

#夢幻伝説タカマガハラ #二次小説 #澪標シリーズ


「すみません、港までお願いします」

高天原。

都(リューシャー)から遠く離れたチトラの村で、
颯太は空遊機(エア・オート)に乗り込む。

運転手に行き先を告げ、
距離に応じて料金を払う、

いわばタクシーのようなものだ。

「兄ちゃん、船に乗るのかい?」

人の良さそうな運転手が、
気さくに話しかけてくる。

「ええ。急いで都(リューシャー)まで行かなければいけないので……」

とにかく一度、
神王宮に戻ってきてほしい。

伝説の霊鳥、
鴒(レイ)が携えてきた伽耶からの手紙には、

そう書かれていた。

仲間たちと共に、欠片集めに協力してほしい。

そのためにはまず、
颯太に一刻も早く神王宮に戻ってきてほしい、と。

「だったら、わざわざ船に乗らずに、
そのまま空遊機(エア・オート)で都(リューシャー)まで行った方が早いよ。
……港に行くと遠回りになるからね」

「ええ……。ですが、空遊機(エア・オート)のみだと高くつくので……」

空遊機(エア・オート)で港まで行き、
そこから船に乗るのであれば、

なんとか今ある金額で足りる。

だが、空遊機(エア・オート)のみで
都(リューシャー)に行くとなると、

途端に足りなくなってしまう。

「そうかい。長旅は大変だねぇ」

颯太は運転手の言葉に軽く相槌を打つと、
自分の左手に宿る、淡い光を見つめる。

異なる時空を引き寄せるという、
不思議な石の欠片。

いや、欠片の残影と言った方が正しいかもしれない。

ほんの少し、強く握っただけで、
欠片はあっという間に掌に吸い込まれ、

もはや、形も質量も感じることができないのだから。

「ほら、兄ちゃん。下を見てごらん。
この川は見物だよ」

突然、運転手が声を上げる。

颯太が眼下を見下ろすと、
ちょうど大きな川の真上に差し掛かったところだった。

「すごいですね、この川……」

近くにいれば呑み込まれてしまう程の激しい流れ。

ところどころで渦を巻き、
荒れ狂うように流れる大河は、

川というよりもむしろ、
海を思わせる。

「だろう?……この川はいつ見ても飽きないんだ」

颯太は頷いて、
食い入るように川を見つめる。

そのときだった。

(え……?、あれは……)

川岸に浮かぶ、淡い光が目に入る。
颯太の左手に宿るものと同じ、碧い光。

(時の石(ツァイト・ストーン)の欠片……)

颯太がその光に目を奪われていると、
突然、脳裏に懐かしい声が響いた。

――颯太……。早く来いよ……。
"オレ"は、ここにいるから……――


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