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【タカマ二次小説】君は僕のスワローテイル

いかにも、那智が好きそうな曲だと思った。
ラテン系のリズムが独特なアップテンポの曲。

もし高天原(むこう)の那智が聴いたなら、
きっと自然と踊り出すのだろう。

中ツ国(こっち)の那智はといえば、
人のごった返した体育館のステージで、
エレキギターを掻き鳴らしながら、
難しいその音程を難なく歌い上げる。

今日は高校の文化祭。

熱気の溢れた体育館では、
軽音楽部のライブが行われていた。

黄色い歓声と熱い視線を一身に集め、
華麗なギターさばきと美声を披露する彼を見つめ、
颯太は溜息を漏らす。

(蝶は、おまえの方だろうに・・・・・・)

那智の口から紡ぎ出される歌詞が、
颯太の心を抉る。

――あなたに逢えた。それだけで良かった。
世界に光が満ちた――

それはまさに、颯太の心そのもので。

――夢で逢えるだけで良かったのに――

そう、それだけで良かったのに。
良かったはずなのに。

(好きになってほしいと、思ってしまった・・・・・・)

一度思ってしまうと、止められなくて。
けれど、彼はどんどん遠くに行ってしまう。

まるでどんなに追い求めても近づけないオアシスのように、
颯太の心に飢えと渇きを植え付けながら、
瞬く間に学校中のアイドルに駆け上がる。

――もし、これが戯曲なら、なんてひどいストーリーだろう――

本当に、笑えてしまう。

膨らんで行き場をなくし、持て余したこの想いを、
彼に届ける術がない。

――進むことも、戻ることもできずにただ一人――

人混みに揉まれながら、
まばゆい世界で自由に羽ばたく彼の姿を、
眺めていることしかできないのだから――。


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