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【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#5 視線の先に

「ようこそ、我が神王宮へ」

神王宮の君主、
月読が一行を笑顔で出迎えていた頃。

隣の部屋では、
女官たちがせっせと食事の用意をしていた。

その中で、ひときわ美しい金髪の少女が、
食器をテーブルに並べながら、
盛大なため息をつく。

(伝説の少女だが何だが知らないけど、
何だって、こんな急に……)

この国の頂点に君臨し、
思うがままに権力を振るう月読が、

「客」としてもてなす相手だなんて、
珍しいにもほどがある。

それも、前々から予定されていたならまだしも、
直前になっていきなり、
これから来る客を丁重にもてなすように、と命令が下ったのだ。

おかげで、彼女たち女官は休憩時間返上で働きっぱなしである。

「ちょっと、そこっ!もっときびきび動けないのっ!?
もうじきお客様がこちらに来るんですよっ!!」

「はいっ。すみません」

すかさず飛んできた女官長の言葉に口先だけで謝って、
彼女は食事の用意を続ける。

あとは温かいスープと肉料理を運ぶだけ、
という段取りになって、
ついに月読と客人たちが部屋に入ってきた。

浮かべている笑顔がものすごく胡散臭いこの城の主は、
部屋の中を物珍しそうに見回す客人たちを、
驚くほど紳士的な振る舞いで席に座らせる。

「さあ、どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」

(何がごゆっくりだっ!こんちくしょうっ!
こんなにこき使いやがってっ!!)

美貌に似合わぬ悪態を心の中で吐き捨てながら、
金髪の少女はスープを運ぶ。

そのときだった。

(うわっ……!!)

視界に入ったひとりの客人に、
彼女は思わず目を見張る。

男にしては華奢な体に、整った顔立ち。
そして何よりも、その髪。

(すごく……きれいっ……)

みずらを結っている彼の髪。
それをいったい、何色と言えば良いのだろう。

まるで栗色と金髪の中間のような、
けれど時折赤毛にも見えるそれは、
光の加減によって、繊細に表情を変えていく。

その髪は、遠目に見ても羨ましいと思えるほど艶やかで、
彼女は思わず、息を吞む。

しかし、それがいけなかったのか、
次の瞬間、彼女が運んでいたスープが、
お盆ごと、彼女の手から滑り落ちてしまった。

ガシャン、という派手な音とともに、
スープがこぼれ、食器が割れる。

彼女は慌てて、床に飛び散ったスープを拭き取る。

すると、くだんの青年が、
心配そうに駆け寄ってくる。

「大丈夫?」

彼女のそばで、割れた食器の欠片を拾い集める彼に、
彼女は、すまない、と詫びる。

まさか、あなたの髪に見とれていたら、
手が滑りました、なんてことは言えない。

「貴様、よくも王宮を汚すようなマネを……!!
それにその食器、おまえの給金の何百倍もの値打ちがあるんだぞ……!!」

すかさず飛んでくる月読の怒声に、
すみません、と素直に謝って、
その場をやり過ごそうとする。

しかし当然、それだけでは済まなかった。

月読は怒鳴った口調そのままに、女官長に命じる。

「こいつは当分食事抜きだ。いいな!?」

そりゃそうか、と彼女がため息をつこうとした時、
後始末を手伝ってくれた青年の声が割って入る。

「そんな……!」

「いいんだ!逆らっちゃいけない!!」

ほっとけば何を言い出すかわからない彼を、
彼女は慌てて止める。

食事抜きで済めば、まだいい方なのだ。

これ以上怒りを買って、
ビンタやむち打ちでもされたものなら、たまらない。

(でも……)

彼女はそっと、彼を見やる。

そして、月読に聞こえないように、
彼の耳元でそっとささやく。

「ありがとう……!」

自分を庇おうとしてくれた彼への、
率直な想いを、
ありったけの笑顔とともに差し出した――。



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