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【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#14 星づく夜

〔第14話〕

#夢幻伝説タカマガハラ #二次小説 #澪標シリーズ


時は少し遡り、欠片が飛び散った夜のこと。

都(リューシャー)のはるか西にそびえ立つ、
クルシナ山地。

その南側のふもとにある、チトラの村の高台で、
颯太はひとり、寝転がって空を見上げる。

この村には外灯がひとつもなく、
空気も非常に澄んでいる。

視界を遮るものは、
背後にそびえるクルシナ山地ただひとつ。

頭上に広がるのは、
吸い込まれるほどの真っ暗闇と、
ダイヤモンドのような無数の輝き。

目を大きく見開いてもなお、
映しきることのできないその光景に、
颯太は心を震わせる。

(これが、星の……、魂の降り注ぐ場所……)

昼間に民家で出会った少年が言っていたのだ。
ここは、星のふるさとなのだと。

――ここはね、星が生まれる場所なんだ。
死んだ人の魂が、クルシナ山地を駆け上がって、
空に昇るんだって――

そして星になり、光となって降り注ぐのだという。

やがて光は大地へとこぼれ落ち、
新たな生命(いのち)として、生まれ変わるのだという。

(なんて、綺麗なんだろう……)

それは今まで見たどんな星空よりも美しく、
切なくて、狂おしい。

広大な夜空に引っくり返された、
天然の宝石箱は、

見つめれば見つめるほど、
輝きを増していく。

頭上に広がる、今にもこぼれ落ちそうな星々を見つめながら、颯太は思う。

(オレは今、魂が生まれ変わる瞬間に、
立ち会っているのかもしれない……)

吸い込まれるほどの漆黒を舞台に、
光り輝く星々は、

そのひとつひとつに想いが
宿っているように見えて、

思わず涙が込み上げる。

(アイツにも……、見せてやりたい……)

誰よりも作り笑いが似合わない、金髪の踊り子。

どんなときでも自分の気持ちにまっすぐで、

子どもの様にころころと表情を変える、
無邪気な少女。

その彼女が、この星空を見たら、
どんな反応をするのだろう。

(……もう、あんな悲劇はたくさんだっ……)

颯太は、込み上げてきた怒りにも似た哀しみを、
空に向かって吐き捨てる。

脳裏に浮かんだのは、
自分の気持ちに正直なはずの那智が、

たった一度だけ浮かべた作り笑い。

それは、隆臣と鳴女の死、
そして結姫の悲壮な覚悟によって、

世界が救われたのだと知った時。

しばらく泣きじゃくった後で、
彼女は力なく笑った。

これ以上泣いてても仕方ないよなと、
そう呟いて。

(本当は、もっと泣いていたかったはずなのに……)

それなのに、彼女が笑ったのは、

自分の無力さに打ちひしがれて、
泣くことも笑うこともできずにいた、

颯太を始めとする、
仲間たちの存在があったからだろう。

自分だけ泣いて悪かったと、
彼女は笑って言った。

(あの時、一番大人だったのは、
那智だったかもしれない……)

あの時の自分には、那智と一緒に泣くことも、
泣きじゃくる彼女を抱きしめることもできなかった。

ただただ、己の無力さを嘆き、
呆然と立ち尽くしていた。

(もう二度と、あんなことを繰り返しはしないっ……)

颯太は強く心に誓う。

この綺麗な星空を、美しい世界を、
危機に陥れたりはしない。

そんな兆候があれば、すぐにでも打開策を考える。

そのためには、世界各地に残る言い伝えを、
ひとつでも多く集めておきたい。

きっとそれらは、忘れてはならない、
先人たちの知恵であり、
教訓であり、心なのだから。

――すぐに、帰ってくるんだろ……?
そうじゃないと、許さないからっ……――

不意に、都(リューシャー)を発つ前に言われた、
那智の言葉が蘇る。

隆臣みたいに、二度と帰って来ないなんて、
絶対に許さないから。

そう言われた気がした。

(大丈夫。オレは、必ず帰るから。
もうじき帰るから……)

脳裏に浮かぶ彼女の泣き顔に囁いて、
左手にはまる指輪を見つめる。

彼女が編んだという銀色の指輪が、
星明りを受けてきらめく。

その刹那。

漆黒の空から、碧い光の粒が、
まるで流れ星の様に、

颯太目がけて
こぼれ落ちてきた―。


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