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【タカマ二次小説】陽光の届かぬ塔の雲雀#19 太陽を継ぐ者
涙ながらに、鳴女様が語る。
「地平線の少女(ホル・アクテイ)」とその仲間たちに託された、
使命の意味を。
「4人の天ツ神たちは、結姫、あなたを天珠宮まで守るために……。
結姫、あなたは、天照様、すなわち今の太陽がなくなり、
全てが失われた後、新しい世界の太陽となるために……」
(え……?)
私は耳を疑った。
天照様の後を継ぐのは私。
日継ノ姫宮(ヒツギノヒメミヤ)である私。
ずっとそう言われ続けてきた。
けれど、叔母様が竜に呑まれて死んでしまえば、
陽移し(ひうつし)の儀式が行えない。
陽移し(ひうつし)の儀式とは、当代の天照から次代の天照へと
職を引き継ぐ大切な儀式。
天照様の放つまばゆい光を神華鏡で受け止め、
それを自分のものとして吸収することで、
日継ノ姫宮(ヒツギノヒメミヤ)が新しい天照になる。
(でもそれは、天照様が高齢となって、
もう役目を続けられなくなった時に、行うものだと……)
そう聞かされていた。
天照となった者は、自らの寿命を予知することができ、
そこから逆算して、この儀式の日取りを決めるのだと。
つまりこの儀式は、天照の余命がわずかではありつつも、
まだ余力があるときに行われる。
……決して、生死の淵に立たされているときに
行うようなものじゃない。
ましてや、天照が破壊神に食われようとしているそのときに、
行うようなものでは、決してない。
(だから、新しい天照は立たないのだと思っていた……)
新たな天照が立たないままに、世界が滅んでしまう。
そんなのはあんまりだと思っていたけれど。
(まさか、まさか、こんな……)
私は手で口を覆う。
その場にいた誰もが、言葉を失っていた。
鳴女様だけが、静かに言葉を紡ぐ。
「結姫、あなたは、世界を救う存在です。
あなたなしでは、世界の存続はありえない……」
世界が滅び、すべての命が死に絶えた後、
唯一生き残り、新しい世界を照らす太陽となる。
世界を救う最後の希望こそが、彼女なのだと、
そう語る鳴女様の言葉に、不意に叔母様の声が重なる。
地平線の少女(ホル・アクテイ)は私たちの味方であり、
助けてくれる存在であり、まさに希望の光なのだと、
だから、恐れることなどないのだと、
信じればいいのだと、
そう言って微笑んでいた叔母様の声が。
(叔母様は、全てを知った上で、その上で……っ)
その上で、微笑んでいたのだ。
代々、神王家が受け継いできた、
まばゆい太陽の恵み。
それを、これ以上どうしても、
存続させることができなくなったとき。
地平線の彼方から生まれる、新たな光に、
全てを託す。
希望を信じて、全てを託す。
それが、私たちにできる、
最後の役目なのだと、そう言いたくて。
(叔母様っ……!!!)
気づいた瞬間に、体が震えた。
全てを知り、それを胸に秘め、
今まで生きてきた叔母様。
そして今、「最期の時」を迎えようとしている。
天照として、気高く慈悲深く、
「その時」を迎えようとしている。
(私は……っ、私に、できることはっ……)
本当に、何もないのだろうか。
ただ、希望を託して、信じて待つこと以外、
何もないのだろうか。
日継ノ姫宮(ヒツギノヒメミヤ)として
生まれついたのに。
叔母様の姪として、お父様の娘として、
生まれついたのに。
「嘘つき……」
掠れた声が聞こえて、
声がした方に目線を運ぶ。
するとそこには、肩を震わせ、
涙を称えた結姫さんがいた。
「嘘つき……!!鳴女さんの嘘つきっ……!!」
彼女はそう叫ぶなり、
勢いよくその場を飛び出していく。
「結姫っ!!」
すかさず、那智さんが後を追おうとする。
それを、颯太さんが止めた。
「今は、そっとしておいた方がいい……」
その言葉に、那智さんが泣きそうな顔で頷く。
今までずっと、世界を救うために奮闘してきた彼女たち。
今ある世界を、そのまま残すことを目指して、
頑張って来た彼女たち。
そんな人たちにかけられる言葉など、
私には何ひとつ、見つからなかった――。