【タカマ二次小説】陽光の届かぬ塔の雲雀#21 空へとつなぐ鍵
「神華鏡をお渡しします。
……ただし、ひとつ、条件があります」
途方に暮れたように佇む4人の天ツ神たちに向けて、
私はきっぱりと口にした。
「私も一緒に天珠宮に連れて行ってください。
お願いします」
深く頭を下げる私に、圭麻さんが慌てて頭を上げるように告げる。
そして、優しく諭すように語りかける。
「この先、どんな危険が待ち受けているかわかりません。
オレたちがあなたを守れる保証もありません。
……これ以上、あなたを巻き込みたくはない……」
けれど、私はその言葉に、頑なに首を振る。
「連れて行っていただけないのなら、
神華鏡はお渡しできません」
「伽耶さんっ……!」
困ったような声が頭上から振ってくる。
かつて、天照様の持ち物だった、神獣鏡と神華鏡。
このふたつの鏡が揃って初めて、天珠宮への道が開かれる。
今や、巨大な自然界のエネルギーに覆われ、
地上からは完全に切り離されてしまった、天空の城。
そこへ続く、唯一の道が。
「私、自分の身は自分で守ります。
皆さんに迷惑なんてかけません。
だから、お願いです。
私も一緒に連れて行ってくださいっ !!」
必死に頼み込む私を見て、
ついに那智さんが口を挟む。
「いいじゃねぇか。こう言ってんだし。
お荷物になるようなら、そのまま放っておけばいい。
それでもいいから、行きたいってことなんだと思うぜ?」
私はその言葉に、迷わず頷く。
それを受けて、颯太さんも加勢に応じる。
「伽耶さんはこの件に無関係の人間じゃない。
見届ける権利はあると思う」
泰造さんも頷き、圭麻さんがやれやれ、
とでも言いたげにため息を漏らす。
「……わかりました。……でも、決して無理はしないでください。
これから先、何が起こるか、本当にわからないんですから……」
私はお礼を言って、神華鏡を圭麻さんに預ける。
……何が起こるかわからない。
その言葉の裏にあるのは、恐怖だろうか。
それとも、この世界が滅んでしまうことへの、落胆や絶望だろうか。
再び、重苦しい空気が辺りに漂う。
誰からともなく、冷たい廊下に腰を下ろし、うずくまる。
この場を飛び出して行った
「伝説の少女」が戻って来ない限り、
出立はできない。
そして、彼女に課せられた使命は重く、
簡単に励ましたり、慰めたりできるようなものではなかった。
彼女が運命を受け入れるには、時間が必要で、
天ツ神たちが前を向くのにもまた、時間が必要だった。
「結局オレたち、何もできないまま、
みんななくなっちゃうのか……?」
不意に、那智さんが呟く。
「……ってことはおいっ!!
オレは親父の会社を継げねーってことかよ!?」
大声を上げた彼女に、今度は泰造さんが応戦する。
「そーだよ!!みんな消滅するんだ。
会社がなくてどうやって継ぐんだよ!?」
「なんだよ、その言い方!!
他人事だと思いやがってっ!!」
ケンカを始めた二人の間に、圭麻さんが割って入る。
「今、そういう次元の話しないでくれっ!!
虚しさ倍増だっ!!」
「んなこと言ったってっ!!」
わあわあ言い合いを続ける3人の少年、少女たち。
その横では、耳に指で栓をしながら、
颯太さんが何やら呟いている。
「カイキンショウ」とか、「ユウメイシリツ」とか、
「コクリツダイ」とか、
そんな言葉が聞こえた気がした。
おそらく、それらが全て消え失せてしまうことを嘆いていたのだと思う。
にわかに騒がしくなった廊下に、
不意に、ひときわ大きな声が響いた。
「シャーラップっ!!!」
驚いて振り返ると、そこには、
飛び出していったはずの結姫さんが立っていた。
「大丈夫っ!!なんとかなるんだからっ!!
ひとんちで騒がないのっ!!」
まるで懐の広い母親のように、
皆をたしなめるその姿を見て、
天ツ神たちの顔に笑みが広がっていく。
「なんか、久々に聞いたなぁ、結姫のお説教っ!」
快活に笑う泰造さんの声に、
結姫さんが「そうだっけ?」と口にし、
それを受けて、那智さんが「そうだよ」と笑う。
颯太さんも頷いて、こんな言葉を口にした。
「そうだよな。どう転んでもみんななくなるなら、
オレはやるだけのことはやっておきたい。
そうすれば、なんとかなるかもしれないよなっ」
その言葉に皆が口々に頷く。
たとえ、世界が滅びることが
決まっているのだとしても。
諦めて何もしないよりも、
できる限りのことをしたい。
そのことで、何かが変わるかもしれないから。
そんな天ツ神たちの言葉を聞いて、
私の心も奮い立つ。
(私は、私にできることをしなきゃ……)
それは、たったひとつしかないけれど、
そのたったひとつのことを、
ちゃんとやり遂げようと思う。
これから起こることから目を背けずに、
しっかりと見届ける。
それが、私にできる、
唯一のことだから――。