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【タカマ二次小説】陽光の届かぬ塔の雲雀#28 真実の伝道師(最終話)

「そんなに、気負いすぎなくてもよいのですよ」

天照様が穏やかに微笑む。

「彼」が身を以て世界を救ってから、数日後。

私は天照様のお世話をするために、
天珠宮に残っていた。

世界の荒廃、そしてスサノヲの攻撃により、
だいぶ衰弱していた叔母様も、

無事に回復を遂げ、
今では安定した光を地上に届けている。

「あなた1人でどうこうできる話ではないのです。
皆で力を合わせて、世界を守っていくしかないのだから……」

天照様の言葉に、私は頷く。

そう、きっと今も、私一人でできることなんて、
無いに等しいのだと思う。

ひとりひとりが現実を見据え、
向き合っていくことで、力を合わせることで、

ようやく何かを守れるのかもしれない。

「叔母様……。いえ、天照様……」

私は、ここ数日考えていたことを伝えようと口を開く。

けれど、いざ伝えようとすると、
迷いが生じる。

本当にそれでよいのかと。

そんなことをしたら、
天照様が困るのではないかと。

そんな私の気持ちを察したのか、
天照様は柔らかな笑みを浮かべる。

「伽耶、私は大丈夫ですよ。
あなたのおかげで、こんなに元気になったもの」

「叔母様……」

気持ちを見抜かれている。
そう思えば思うほど、

言えばきっと許してくれる。
そう思えば思うほど、

躊躇いが生じる。

かつては、鳴女様の役目だった、
天照様のサポート。

それを投げ出して、
本当に良いのだろうか。

逡巡していると、
不意に叔母様が口を開く。

「伽耶。鳴女はあなたに天珠宮(ここ)を託すと
言っていたようだけれど……。
だからといえ、その言葉に縛られる必要はないのです。
……ここを出て、地上がどうなっているか、
その目で確かめたいのではありませんか……?」

言えずにいた言葉を、そのまま言われて、
もはや隠すことはできないと悟る。

私は心を決めて、思いを口にする。

「叔母様、いえ、天照様。
私は、私にできることをしてみたいのです。
世界に光が戻ったとはいえ、
それで何もかもが元通りになっているとは思えません……」

お父様は亡くなってしまったし、
神王宮は廃墟のようになってしまった。

それらが全て悪い夢だったなんて、
目が覚めれば全て元通りなんて、

そんな虫のいい話はあり得ない。

地上は光が戻っただけで、
きっと荒れ果てているに違いない。

「私に何ができるかわからないけれど、
でも、それでも、世界を、
この高天原を立て直さなければいけないのです。
……神王家の巫女姫として」

(それに……)

まずは何よりも先に、
やることがある。

何よりも先に、
私がやらなければいけないこと。

それは。

「きっと地上では、天ツ神たちが待っていると思うのです。
帰ってくるはずのない、あのふたりのことを……」

破壊神となってしまった彼と、
世界を救う使命を背負った少女。

ふたりの帰りを、
今か今かと待ちわびているはずだ。

そんな彼らに、伝えなければならない。
私がこの目で見て、感じたことを。

黙って私の言葉を聞いていた天照様は、
あたたかくも凛とした声で告げる。

「行ってらっしゃい。あなたがやろうとしていることは、
あなたにとっても、この世界にとっても、すごく重要なことです。
私のことは大丈夫。あなたの後押しもできないくらいでは、
天照なんて務まらないわ」

私はその言葉に背中を押され、
翌朝早くに、天珠宮を発つことにした。

朝の訪れとともに、
天照様に別れを告げて、

天珠宮の巨大な門の外へ出る。

そして、
地上へと続く長い階段に足を伸ばした――。



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