【タカマ二次小説】取り残された世界で君と見たものは#2 夢現(ゆめうつつ)
長い、夢を見ていたような気がする。
真っ暗な空の下で、不安を胸に、
何かを祈っていた気がする。
何が、そんなにも不安だったのだろう。
何を、必死に祈っていたのだろう。
思い出せない。
思い出せないけれど、
とにかく何かを祈っていた。
みんなで何かを祈っていた。
(みんな……?)
みんなって、誰だっけ。
そんな疑問が頭をもたげる。
ひとりではなかった気がするのに、
大事な「仲間」がいた気がするのに、
それが誰なのかがわからない。
何とも奇妙な夢だと、
まどろみの中で思う。
「那智っ!しっかりしろっ!那智っ!」
不意に、聞き覚えのある声が耳に届いた。
もう少し寝かせてほしいと呟きながら、
那智は再びまどろみに手を伸ばす。
すると、それを邪魔するように、
激しく揺り起こされた。
「いい加減、起きろっ!!」
耳元で怒鳴られて、
顔をしかめながらも起き上がる。
「なんだよ、もう……。
うるさいなぁ……」
すぐさま目に入ったのは、
髪の長い神官だった。
呆れたように那智を見下ろす彼に
文句を垂れると、
すぐさま盛大なため息が漏れた。
「呑気に寝すぎなんだよ、おまえ」
なかなか起きないから心配したんだと、
ぼそっと呟かれた言葉に、
那智は目を丸くする。
(……おまえが言うなよ……)
そう思いつつも、
何だかくすぐったくて、
不思議な気分になる。
「痴話げんかもそれくらいにしてくださいね。
ここは公道なんですから」
「そーだよ!特に那智!
おまえ、自分の置かれた状況わかってんのかよ!?」
誰に対しても敬語を忘れず、
知的で変わり者オーラを纏った少年と、
いかにもケンカっぱやい腕力少年にまで
責め立てられて、
那智はイラっとしながらも周りを見渡す。
「ここ……、神王宮……?」
目の前にあるのは、
那智が女官として働いていた、
城の正門だった。
いつの間に自分は、
正門前の大通りで眠りこけていたのかと、
その奇妙な状況に驚く。
奇妙なのはそれだけではない。
普段なら厳しい門番が見張っているはずなのに、
そんな気配がまったくない。
あるで廃墟のように静まり返った城を、
道行く人々が心配そうに見つめている。
空からは太陽の光が燦々と降り注ぎ、
時折爽やかな風が吹き抜ける。
天気だけはやたらと穏やかで、
目の前の光景とのギャップが凄まじい。
どこまでが夢で、どこからが現実なのか、
曖昧になっていた那智の脳裏に、
まざまざと「現実」が蘇ってくる。
(オレは、確か、さっきまで……)
さっきまで、空の上にいたはずなのだ。
仲間とともに、
荒れ狂う風に逆らいながら、
長い階段を昇り、
蓮の花が咲き誇る天空の庭園へと辿り着いた。
しかしその直後、疾風に巻き込まれ、
仲間とは離ればなれになった。
4人それぞれ、巨大な門の前に運ばれて、
そこで役目を果たすように言われたのだ。
4つの門を全て解放すれば、
天珠宮が姿を現すのだと。
だから、それぞれが呪文を唱えて
一斉に門を開けるようにと。
(呪文を唱えて、そしたら、
眩しい光が飛び込んできて……)
そして、気を失った。
気づけばここにいる。それが、現実。
世界は、滅んではいない。
失われるはずだった太陽は、
今も頭上で輝いている。
自分の体を見回しても、
多少のかすり傷はあっても、
大きなケガは何もない。
仲間たちも無事のようだ。
……一部の人間を除いては。
「結姫と隆臣は……?」
ここにいない、仲間の名前を口にする。
その言葉に、颯太が首を振った。
「わからないんだ……。
オレたちが目を覚ましたときにはすでに、
太陽が輝きを取り戻した後だった。
……世界は、救われたはずなんだ……。
だけど、ふたりの姿はまだ……」
圭麻と泰造も、
神妙な面持ちでその言葉に耳を傾けている。
那智はそっか、と呟いて、そして笑う。
「みんな、何しょげたツラしてんだよっ!
だいじょぶだってっ!
そのうち戻ってくるよ、絶対っ!!」
世界が救われて、太陽が戻ってきたのだ。
そして6人いる仲間のうち、
少なくとも4人はこうして無事に戻ってきた。
何をそう憂う必要があるのかと、
自分自身を鼓舞する意味も込めて、
那智は快活に笑う。
そうだよな、と頷く仲間たちに
那智はそうだよと笑みを返し、
地べたで眠りこけたせいで汚れた服を
パンパンとほろった。