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【タカマ二次小説】夢で逢えたら(初版)#6 奇跡のセオリー
「へ~え、よくできてるなぁ……」
那智からオカリナを受け取った圭麻が、
しげしげと眺めている。
「これを吹いたらさ、いきなり周りが光に包まれて、
気がついたら中ツ国(こっち)に来てたんだ」
那智はもうすっかり、
いつもの明るい調子に戻っている。
「そうそう、あの時、いきなり辺りがまぶしくなってさ、
気がついたらコイツがいるだろ?マジで驚いたぜ。なぁ、颯太?」
「あ、ああ……」
突然話を振られて、戸惑う颯太。
その脳裏にはまだ、那智の泣き顔が焼き付いていた。
「ねえ、どういう仕組みなの?」
圭麻の手に握られたオカリナを、
結姫も興味津々でのぞき込む。
「たぶん、那智が言ってた"ツァイなんとか"というのは、
時の石(ツァイト・ストーン)のことだと思うんです」
「時の石(ツァイト・ストーン)?」
「なんだ、それは?」
みな、口々に尋ねる。
それを受けて、圭麻が口を開く。
「異なる時空を引き寄せる力を持つといわれている石です。
幻の石と謳われるほどとても貴重で、
手に入れるのが大変難しい鉱物です」
「その貴重な石を、おまえがどうやって手に入れたんだよ?」
"幻の石"と聞いては、
元盗賊の頭、隆臣も黙ってはいられない。
「さあ……。そこまではわかりませんが……。
とにかく、その石を使って、時空の異なる高天原と中ツ国を引き寄せたのだと思います」
「……2つの世界を引き寄せて、交わったところで、
体ごと中ツ国(こっち)に移動させたってわけか……」
颯太の言葉に圭麻が頷く。
「幻珊瑚は、中ツ国(こっち)に来ても体に支障がないように、
"つなぎ"の役割をしているのではないでしょうか」
「いわば、結姫の勾玉と一部似た役割ってわけだな」
「ええ」
地平線の少女(ホル・アクテイ)が持つ勾玉は、
天ツ神たちのそれとは異なり、
中ツ国の体を高天原につないでおく力も持っていた。
今回はその逆というわけである。
「やっぱオレにはよくわかんねーや」
泰造が真っ先に音を上げる。
頭を使うのは苦手なのだ。
「おまえら、いつまでここにいる気だよ?
もうこんな時間だぜ?」
隆臣も時計を指差して不平を述べる。
時刻はもう6時近い。
用のない生徒は、
そろそろ学校を出なければならない時間だった。
「そうですね。今は仕掛け云々よりも、これからどうするかを考えましょう。
……ひとまず、那智はどれくらい中ツ国(こっち)にいられるんです?」
「え?」
「ずっといられるわけじゃないでしょう?」
その途端、明るかった那智の表情が曇る。
(ずっといられるわけじゃない……)
わかっていたはずだった。
……高天原にいたとき、圭麻と約束したのだ。
3日以内には帰ってくると。
(でなければ、命の保障はない……)
そう言われた。
もう一度オカリナを吹けば、高天原に戻れる。
だから、3日以内に必ず戻ってこいと。
しかも、もしどこか体調が悪くなれば、
3日と言わず、一刻も早く戻ってくるようにと。
「3日間……」
那智はかすれた声で、
告げられた期限を口にする。
「それじゃあ、うちへおいでよ」
結姫が、那智を元気付けるように言う。
「一人くらいなら泊まれるし、
それにほら、うち、男の子が多いから、
お父さんやお母さんも、女の子が来れば喜ぶと思うの」
こうして、那智が3日間、結姫の家に居候することが決まり、
5人は帰路に就いたのである。