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【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#74 同じ穴の狢

「オレ、橋姫の気持ちがわかる気がする……」

翌朝。

朝食の席でぽつりと呟かれた言葉に、
圭麻が驚いて顔を上げる。

「『自分』が嫌いなんだろ……?
自分を消しちゃいたいんだろ……?
そのために、欠片を使いたいんだろ……?」

まるで自分もそうだと言わんばかりの言葉に、
圭麻は箸を運ぶ手を止める。

「だからって、世界が滅んでも
良いわけじゃないけど……」

自分だけ消せたら、楽なんだろうな、
と呟かれた言葉に、
泰造が勢いよく箸をお膳に叩きつける。

「那智っ。おまえ、いい加減にしろよ。
昨日、颯太も言ってただろ。
おまえが悪いわけじゃないんだから、
それ以上、自分を責めるのはよせっ!」

「そうですよ。それに、
颯太が言ってたじゃないですか。
橋姫に襲われた時、
那智の声が聞こえた気がしたって。
その声に助けられたんだって」

「でもっ……」

襲われる原因を作ったのは自分だと、
那智が漏らす。

「オレっ、何も、知らなくてっ……、
全然、知らなくてっ……。
颯太がなんで帰って来れないのか、
全然、知らなくてっ……」

何も知らずに、呑気に帰りを待っていたのだと、
無事を祈っていたのだと、那智が吐露する。

「そりゃ、そーだろ。おまえは、
何も知らなかったんだから」

そんなの当たり前だろうと語る泰造の言葉に、
那智は不意に、首を振る。

「――オレ……、本当は、知ってた……」

「え……?」

急に掌を返したようなその言葉に、
圭麻も泰造も驚いて那智を見つめる。

「中ツ国(むこう)の『オレ』が、
オレを羨ましいと思ってたこと、知ってた……」

「那智……」

「知ってたけど……。オレだって、
『アイツ』が羨ましかったからっ……。
オレにないものをいっぱい持ってる
『アイツ』が羨ましかったからっ……」

服も、靴も、鞄も、お金でさえも。
望んだものは、何でも手に入る。

毎日ふかふかのベッドに寝られて、
何不自由なく暮らせて。

毎日必死に働かなくても、
理不尽なこと言われながら働かなくても、
自由に好きなことができる。

そんな「アイツ」が羨ましかったのだと、
涙ながらに訴える。

「それだけじゃないっ!!中ツ国(むこう)には、結姫と隆臣だっているのにっ!!
普通にいるのにっ!!
なのになんでだよっ!?
なんで『アイツ』は奪うんだよっ!?
オレの大事なものを奪うんだよっ……!?」

そんな「アイツ」が嫌いだと、
大っ嫌いだと、そう吐き捨てた上で、
那智は呟いた。

本当は、そう思ってしまう自分が、
一番嫌いだと――。



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