【タカマ二次小説】それは蛍のように#9 書簡
「時の遣い手(ツァイアー)!!大丈夫……!?
いったい何があったの……!?」
都(リューシャー)にそびえたつ神王宮。
さらにその上空に浮かぶ天珠宮に、
伽耶が宴の席から帰ってきた。
神王宮の広間で目にした碧い光が、
時の石(ツァイト・ストーン)のものだと気づき、
慌てて駆け戻ってきたのである。
神王宮と天珠宮は、長い石段で繋がっている。
しかし、伽耶が天珠宮に戻ろうとしたときには、
その大部分が崩れ、
かろうじて一部だけが原型を留めていた。
その崩れずに残っている部分をよじ登り、
やっとのことで目的地に辿り着いたのだ。
「も、申し訳ありません……。まさか、こんな……」
今にも泣き出しそうな時の遣い手(ツァイアー)に、
伽耶は優しく語り掛ける。
「大丈夫だから、
何が起きたのかゆっくり話してちょうだい」
「はい…」
力無く頷くと、
時の遣い手(ツァイアー)は事のあらましを話す。
伽耶に成りすました男が天珠宮に侵入してきたこと。
男の変装に気づかず、
男の言うままに時の石(ツァイト・ストーン)を
手渡してしまったこと。
逃げようとした男の手の中で突然石が光り出し、
石段を破壊したかと思うと、
男もろとも地上に落下してしまったこと。
仕舞いには、落下の衝撃で砕けた石の欠片が、
世界中に飛び散ってしまったこと。
「欠片と言えど、その力は甚大です……。
邪な者の手に渡ったらどうなることか……」
「そうね……。
なんとかして、一刻も早く欠片を探し出し、
また一つの石につなぎ合わせなければならないわ…」
しかし、
どこにどれだけ散らばったのかもわからないのだ。
いったいどうやって集めればいいというのか。
しばらく考え込んだ後、
伽耶がぽんっと手を叩く。
「そうだわっ!あの人たちがいるじゃないっ!!」
かつて、地平線の少女(ホル・アクテイ)と共に、
世界を救った者たち。
彼らはそれぞれが特殊な力に長けている。
彼らが再び力を合わせれば、
この難局も乗り越えられるかもしれない。
(特に、あの人は……)
視力がずば抜けていたはずだ。
普通なら決して見えないような遠くのものや、
幽霊といった異質なものが見える。
彼ならば、
案外楽に欠片の在り処がわかるかもしれない。
「でもあいにく、都(ここ)から遠く離れたところにいるのよねぇ」
史官の補佐として働き、
遠方を旅している彼にいち早く事を伝えるには、
どうすればいいだろう。
伽耶がそう尋ねると、
先程よりは落ち着きを取り戻した時の遣い手(ツァイアー)が、口を開く。
「鴒(レイ)がおりまする…」
世界最速と謳われる、伝説の霊鳥。
神王宮と天珠宮でのみ飼育が許されるこの鳥は、
目的の相手がどこにいても必ず探し出し、
書状を届けるという、
いわば"伝書鳩"のエキスパートだ。
「そうね。……じゃあ、早速手紙を書かなくちゃ。
時の遣い手(ツァイアー)、手伝ってちょうだい」
そう言うと、
伽耶は時の遣い手(ツァイアー)を引き連れて、
いそいそと書斎へ入っていった。
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