
【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#11 天使と小悪魔
藻屑蟹(シザー・クレス)のいた泉を抜けて、
辿り着いたのは、
武器の原料になる鉱物、天青鉱(セレスタイン)の産地、
タオナの村だった。
藻屑蟹(シザー・クレス)が言うには、
水晶虫(クリスタル・バック・ワーム)の住処へは、
この村を抜けるのが近道なのだという。
それ以上は教えてもらえなかったため、
一行は、村人たちから地図を手に入れようと考えていた。
その矢先のこと。
「つかまえてくれっ!!ドロボウだっ!!」
村人たちの視線の先には、
まだ年端もいかない少女の姿。
彼女は颯太にぶつかって転び、
村人たちが追ってくるのを見ると、
手を差し伸べた颯太の背中に、慌てて隠れる。
「藍っ!!またおまえだなっ!!」
「今日こそは許さねえぞっ!!」
大の大人が、寄ってたかって彼女を捕まえようとする。
それを見かねて、結姫が割って入る。
「ちょっと待ってっ!!小さな女の子に大人が大勢で……。
怖がってるじゃないっ!!」
よそもんは黙っててくれと、村人が喚く。
ソイツは村中が必死で掘り出している天青鉱(セレスタイン)を盗んだのだからと。
「あれを一粒残さず都に差し出さないと、
月読さまにどんな目に遭わされるかっ……。
……って、こらっ、待て、藍っ!!」
村人が一行と言い合っている隙をついて、
藍と呼ばれた少女が全速力で駆け出した。
それをやむなく見送って、村人たちは舌打ちをする。
「とんだ邪魔が入っちまった。行こうぜ」
自分の持ち場へと帰っていく村人たちを見送って、
一行は少女が消えた方向へと向かう。
そこは、もう採掘には使っていない洞穴だった。
一行が足を踏み入れると、
そこには、まっくろくろすけに似た、
小さくて可愛らしい生き物たちが、
ふわふわと浮かんでいた。
それは、天青鉱(セレスタイン)を主食とする、
墨頭虫(カーボン・ヘッド)の子どもたちだ。
藍が恐る恐る、岩陰から覗くようにこちらを窺っている。
「もしかしてこの子、ここでひとりで育てているんじゃ……」
圭麻の言葉に頷いて、颯太が彼女に歩み寄る。
「エサが必要だったんだね。そのために、
天青鉱(セレスタイン)を盗んだんだ。そうだね……?」
颯太の言葉に、彼女が頷く。
目には、涙が浮かんでいる。
「まえはみんな、『墨頭虫(カーボン・ヘッド)は
村の守り神だよ』って言って、大事にしてたの。
でも、村でとれた天青鉱(セレスタイン)を
月読さまがみいんな持って行っちゃうようになってから、
みんなかわっちゃった。
月読さまがこわくて、このコたちのことなんか、
どうでもいいみたいなんだ……」
藍は涙を拭って、言葉を続ける。
「このコたちの親は、食べるものがなくて、死んじゃったの。
おなかがすいて泣きたいのは、人間も虫も同じなのにっ……」
泣きじゃくる藍の言葉に、
ひどい話だと、一行は耳を傾ける。
岩に腰掛けていた颯太は、
自分の服にしがみついている藍の頭をなでながら呟く。
「この分だと、ここでは地図は手に入りそうにないな……」
村人たちを敵に回しちゃったし、と漏らした言葉に、
藍が慌てて口を開く。
「ごめんなさい、お姉さんっ。みんなあたしのせい。
キレーな髪もだいなしにしちゃった。あたし、あみなおすっ」
藍とぶつかった拍子にほつれた颯太の髪に、
藍が手を伸ばす。
その手を優しく握り、颯太は微笑む。
「平気だよ、髪くらい。オレ、男だから」
「お、男の人……」
藍がぽかんと颯太を見つめる。
そのあまりの驚きように、
颯太は苦笑いをこぼす。
「そんなに男っぽくないかな、オレ……」
その途端、仲間たちがくすくすと笑い出した。
「いいんじゃないですか?女性に見紛うほどの美男子」
「うん、颯太、すっごいイケてる!!」
はやし立てる声に混じって、
何やら不穏な視線を感じ、そちらに目をやれば、
那智がずかずかと歩み寄ってきて、
颯太の背後に回る。
そして、自らが施したリボンを勢いよく引き抜くと、
そのままぐしゃぐしゃと颯太の髪を搔き乱す。
「え?ちょっと……」
呆気にとられながらも、
何をするのかと不満を訴えれば、
彼女はふふんと鼻をならし、
せいせいしたと言わんばかりの顔で、
パンパンと手を払う。
(何なんだよ、いったい……)
颯太の抗議の視線は、
にべもなく黙殺されてしまった。