
【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#2 想い出は言の葉とともに
神王宮からほど近い自宅で、
颯太は書棚の整理に勤しんでいた。
神王宮の官吏として採用されて以降、
しばらくは住み込みで働いていたのだが、
数年前にこの家に引っ越してきたのだ。
以来、どんどん書物が増え続け、
ついに棚に収まりきらなくなったため、
休日返上で片づけに勤しんでいる。
「あれ……?これって、確か……」
古ぼけた手帳を見つけて中を覗けば、
昔の自分が書いた文字が飛び込んでくる。
――思いつつ、寝ればや人の見えつらむ
夢と知りせば覚めざらましを――
「夢」の世界で学んだ和歌を書き留めたノートだ。
「こちら」に来てもなお、
忘れられない言葉を書き留めたノート。
ページを捲れど捲れど、
恋にまつわる言葉が続き、
当時の青臭い感情が思い出されて胸が疼く。
(あの時は、こうなるとは思ってもみなかったからなぁ……)
手帳を棚に放り出し、
椅子に腰かけて天井を仰ぐ。
ガリ勉の自分があんなにも誰かを好きになるなんて、
思いもしなかったのだ。
叶わない想いに身を焦がしたり、
ようやく届いた喜びに胸を躍らせてみたり。
少しでも冷静になれればと、
自分の想いに似た言葉を書き集めてみたものの、
かえってのぼせるばかりで、
ちっとも冷静になんてなれなかった。
(うたたねに……)
――恋しき人を見てしより、
夢てふものは頼みそめてき――
手帳に記されていた和歌を思い出しては、
当時の心境に想いを馳せる。
恋なんて、自分とは無縁だと思っていた。
惚れた腫れたと騒ぐ周囲の人々のことも、
どこか引いた目で見ていた。
あの日、彼女と出会うまでは――。