
【タカマ二次小説】陽炎~玉響の記憶~#13 根幹の音色
「そんなに話題になってるんだ、
オレの転部」
夏休みが明けたばかりの昼休み。
那智は颯太の言葉に
驚いて声を上げる。
「ああ。特に結姫がかんかんだった。
どうせ合唱部に入るなら、
もっと早く入ればよかったのにって。
そうすれば、悲しむ女子も少なかったのにって」
なんだそりゃ、と那智が笑う。
合唱部とテニス部の兼部も
できなくはなかったが、
那智は合唱部一本で行くと決めた。
だから、合唱部に入部届を
出すと同時に、
テニス部に
退部届を出したのだ。
当然、テニス部の連中からは
あれやこれやと言われたが、
それで那智の決意が
揺らぐことはなく、
今では放課後にラケットを
振るう代わりに、
ひたすら歌を歌う日々だ。
特に今は10月に控えた文化祭と
全国合唱コンクール地区予選に向けて、
部員一丸となって猛特訓をしている。
「……楽しそうだな」
颯太の言葉に、那智は大きく頷く。
「ああ。すっげー楽しいっ!」
少し前までは、
主旋律を歌えないと意味がないと、
ソプラノじゃないと意味がないと、
そう思っていた。
けれど、違った。
テノールも捨てたもんじゃない。
むしろ、女子部員の多い
合唱部において、
声変わりの最中で
安定した声を
出せない男子部員もいる中で、
那智のように
美しいテノールを歌える人材は、
極めて貴重な存在なのだ。
テノールがあるからこそ、
低音パートがあるからこそ、
深みのある合唱になる。
より一層、
心に響くハーモニーになる。
「この前なんてさ、
オレの声は合唱部の
屋台骨になれるって言われたんたぜ」
那智が得意気に笑う。
ソプラノのような
「華」にはなれないけれど、
合唱全体を支える
「屋台骨」にはなれる。
それはものすごいことだと、
あの素晴らしいハーモニーを
聴いた後なら、
そのハーモニーの一員に
加わった今なら、
素直に思える。
「そっか。良かったな」
颯太の言葉に素直に頷いて、
那智は満面の笑みを浮かべた――。