
【タカマ二次小説】想い出のララバイ~隠し味を添えて~#12 甘美の調べ
その日の夜。
墨頭虫(カーボン・ヘッド)の子どもたちのいる洞穴を寝床に選んだ一行だったが、
颯太はなかなか寝付けない。
無為に時間を過ごすのももったいないと、
颯太はそっと起き上がり、
明かりを片手に辺りを見回す。
ちょうど置き去りにされた工具箱を見つけて、
中からツルハシを取り出すと、
颯太はいてもたってもいられず、
寝ている仲間たちとは離れた場所で岩と向かい合う。
そして、そのままツルハシを岩に向かって打ちつけた。
(あんな小さな子に盗みをさせる世の中なんて、間違ってる……)
少しでも、自分が天青鉱(セレスタイン)を掘り出せば、
藍は盗まなくても済む。
そんな思いで、懸命に岩を叩く。
けれど、もう使われていない穴だけあって、
一粒も出ない。
背後で空腹に泣き叫ぶ墨頭虫(カーボンヘッド)の子どもたちの声が聞こえ、
その声に押されるように、
颯太はくじけそうな心を奮い立たせて、再び岩を叩く。
そんなことを繰り返し、
腕が痛くなってきた頃だった。
「オレたちが少しでも掘り出せば、
藍は盗まなくても済むもんな」
不意に声をかけられ、
驚いて振り返るとそこには、
まるで墨頭虫(カーボンヘッド)の子どもたちをあやすように、
彼らに寄り添う那智がいた。
「でもダメだ……。
もう使っていない穴だけあって、一粒も出ないよ……」
颯太はそのまま岩場に腰を下ろすと、
向かいに腰掛ける那智に向かって呟く。
「あんな小さな子に盗みをさせる世の中なんて、間違ってる。
みんな、どうして気づかないんだ」
そして、胸にしまってあった熱い思いを、
そのまま吐露する。
「これは、布刀玉命(フトタマノミコト)としてじゃない。
オレに……、因幡颯太に与えられた役目だ。
必ず月読よりも早く伝説の謎を解き明かして、
オレが月読の暴走を食い止めてみせる――……っ!」
そう宣言した次の瞬間。
不意に洞穴の入り口から灯りが差し込む。
「誰かそこにいるのか!?」
「うわ、やばっ……!」
見張りと思しき村人の声に、
颯太はとっさに那智の体を引き寄せて、
倒れ込むように岩陰に隠れる。
互いの息がかかるほどの距離で身をかがめ、
村人がいなくなるのを黙って待つ。
「――こんなところまで村人が見張っているのか……」
村人がいなくなったのを見計らって、
颯太が言葉を吐き出すと、
その声に反応したかのように、
墨頭虫(カーボン・ヘッド)の子どもたちが再びキィ―、キィーと泣き始めた。
「……あっ、あ~、泣くなっ。泣くなってばっ……!」
那智はしばらくオロオロしたかと思うと、
おもむろに歌を口ずさむ。
優しく紡がれるそのメロディーは、どこか懐かしくて、
ずっと聴いていたくなるほど心地よくて。
(月桃の花(フスティシア)……)
そう名付けられた子守唄は、
どこまでも美しくて耳がとろけそうになる。
墨頭虫(カーボン・ヘッド)の子どもたちも、
次第におとなしくなり、ゆるやかに眠りへと落ちていく。
颯太は岩に背中を預けると、
全身でその甘美なその調べに耳を傾けた――。