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【タカマ二次小説】月と星のセレナーデ#1 きらびやかな街角で 

12月24日。

世間がクリスマスムード一色に染まる中、
那智は軽音楽部の仲間と連れ立って、
カラオケに向かう。

他校のメンバーも集う
男女混合のクリスマス会は、

軽音楽部員であることの他に、
もう一つ参加条件がある。

「今年も那智が来るとは思わなかったぜ」

とっくに彼女ができていると思ってた、
という仲間の声を適当に聞き流して、

那智は信号を渡る。

クリスマスイブを
一緒に過ごす恋人がいないこと。

それが、この会に参加するための
条件だった。

「――おまえこそ、雅ちゃんと
うまく行ってると思ってたけどな」

「あ~、それは言わない約束っ!」

「じゃあ人のこともとやかく言うなよ」

軽くいなせば、
はいはい、と笑う声が聞こえる。

信号を渡り終えて、
アーケードを右に曲がろうとした
その時だった。

正面のデパートに入っていこうとする
人影が目に留まる。

その人物は、隣にいる女性と
仲睦まじそうに話している。

(誰だよ、ソイツっ・・・・・・)

睨み付ける那智の視線に
気づかないまま、

その人物は
年上らしき女性とともに

デパートの中へと消えていく。

「ん?那智?どうかしたか?」

仲間の声に我に返ると、

何でもないと呟いて、
那智は足を速める。

高校に入学してから、
颯太と過ごす時間が減った。

特段喧嘩をしたわけではないのだが、

片や勉強ばかりの特進コースと、
遊んでばかりの総合コースでは、

自然と生活リズムも
人付き合いも変わってくる。

だからお互い、
知らない世界があるのは当たり前なのだが、

まさか颯太に、
それも今日という日に、

連れ立って歩く女性がいるだなんて、
思ってもみなかった。

(どこで知り合うんだよ、あんな女・・・・・・)

高天原の自分とはまた、
タイプの違う年上女性。

いかにもインテリのオーラを纏った
ストレートボブ。

(塾の講師とか・・・・・・?)

それにしては少し若い気がする。

(社会人っつーよりは、大学生?カテキョーとか?)

カラオケで何度マイクを握っても、

ポテトフライを摘まんでも、
メロンソーダを喉に押し込んでも、

先ほどの光景が脳裏から離れなくて、
妙に心が重い。

「――このメロンソーダ、苦くね?」

呟いた言葉は、
仲間の馬鹿騒ぎにかき消されて

誰の耳にも届かない。

2杯目はクリームソーダにしたものの、
やっぱり妙に味気ない。

仲間の歌うラブソングが虚しく響いて、
余計に心が塞ぐ。

那智はいてもたってもいられなくなって、
スマホに手を伸ばす。

無造作にメッセージアプリを開いて、
無言で言葉を叩く。

――さっきデパートの前で見かけた。
隣にいるの、誰?ーー

送った言葉は、しばらく経っても
既読にはならなかった――。


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