【タカマ二次小説】取り残された世界で君と見たものは#7 力を持たない天ツ神たち
「結姫……、笑ってましたよね……。
なんとかなるから大丈夫だって。
だから頑張ろうよって……」
圭麻の渇いた声が漏れる。
それは、天珠宮に行く直前のこと。
結姫が新しい天照なのだと、
重大な使命を突き付けられた直後。
すぐには受け入れられずに、
その場を飛び出して行った結姫が、
再び自分たちの前に現れた時。
彼女は笑って言った。
なんとかなるから大丈夫だと。
「あの時にはすでに、
覚悟を決めていたんですかね……」
その言葉に、そうかもしれないと、
颯太は今さら気づく。
「そういえば、アイツ……。
泣いてなかったか……?」
自分たちが門(ゲート)を開く直前、
皆で彼女に呼びかけた時。
一緒にいてやれなくてごめんと、
でも待ってるからと、
そう呼びかけたあの時。
必ず戻るからと、また会おうねと、
そう言っていた、あの声。
あの声は、
わずかに震えてはいなかっただろうか。
声が詰まってはいなかっただろうか。
「そう言われれば……、
妙に間があったような気がします……」
含みのある言い方だった、と言った方が正しいかもしれないと、
圭麻が言い直す。
そう、確かに、妙に間があったのだ。
何かをこらえているかのような、
何かが込められているかのような、
そんな言い方だった。
「なんで、気づいてやれなかったんだろう……」
漏れた言葉が、虚しく響く。
結姫は、たったひとりで覚悟を決めていたのだ。
誰にも、何も相談しないままに。
「オレたち、何だったんでしょうね……」
圭麻が呟く。
その言葉に頷きながら、
颯太は心の中で毒気づく。
結姫が結姫なら、隆臣も隆臣だ。
(アイツ、いつだってひとりで決めやがって……)
ひとりで決めて、
ひとりで突き進んでいく。
最後の最後まで、一匹狼を貫いて、
世界を、愛する人を、
守って消えた。
(最後の最後まで、
カッコつけなくてもいいだろうに……)
ぼやいた言葉は、
声にはできなかった。
ガラクタで溢れかえった圭麻の部屋を、
まるで時が止まったかのように、
重たい沈黙が支配する。
誰ひとりとして、何も発せず、
ただ呆然と俯いたまま、
動かない。
そんな時間がしばらく続いて、
不意に、伽耶が言葉を発した。
ごめんなさい、と思いきり頭を下げる。
「私、ただ、見ていることしかできなくてっ……。
何も、できなくてっ……。ごめんなさいっ……。
本当にごめんなさいっ……」
涙をこぼしながら、必死に謝る彼女に、
何て声をかけようかと、
考えあぐねている時だった。
それまでずっと、
呆然と座り込んでいた那智が、
いきなり立ち上がり、
彼女の胸倉を思いきり掴む。
「謝って済むことじゃないだろ!?
最後までそばにいたんなら、
なんで止めなかったんだよっ!!
なんでっ!なんでっ……!!」
颯太が慌てて止めに入ろうとした矢先、
圭麻が勢いよく那智を突き飛ばした。
「やめてくださいっ!!
伽耶さんを責めても仕方ないでしょうっ!?
むしろ、責められるべきはオレたちの方じゃないですかっ!?
ずっとそばにいながら、結姫の嘘に気づけずに、
隆臣の力にもなれずに、
何もできなかったオレたちの方こそ、
無力な、オレたちの方こそっ……!!」
圭麻の怒声に、
那智は床に突っ伏したまま泣き崩れる。
激しい慟哭が、
部屋中に響き渡った――。