
【タカマ二次小説】陽炎~玉響の記憶~#8 忍ぶれど
「おい、那智。なんでオレのノートに
パラパラ漫画が描かれてるんだよ」
何だよ、いまさらぁ?と
那智が呑気な声を上げる。
那智にノートを貸す度に、
ノートの片隅に
何やら奇妙なイラストが
描き加えられていることには、
だいぶ前から気づいていたが、
それがまさか
パラパラ漫画になっているだなんて、
思ってもみなかったのだ。
「気づくのおせーよ。オレがせっかく
毎回コツコツと描いてたのに」
「頑張るポイントが違うだろっ?」
人のノートに
落書きする暇があったら、
コツコツ自分で勉強しろと、
そう言い聞かせても、
那智は全く聞く耳を持たない。
「人間、『遊び』って大事だぞ?
ガリガリ勉強ばっかしてないで、
たまには息抜きしなきゃ」
「おまえは息抜きしすぎなんだよ。
ってかだいたい、おまえはいつ勉強してんだよ。
いっつもオレのノート丸写ししてるだけじゃないか!?」
それじゃ那智のためにも
ならないのだと、
何度言い聞かせても
馬の耳に念仏状態。
それでも結局、
毎回颯太が折れて
ノートを貸してしまうのは、
心のどこかで、
彼に頼られて悪い気がしないからだ。
彼にノートを手渡した瞬間の笑顔に、
毎回心を射抜かれたかのように、
ドキッとしてしまうからだ。
――ありがとうっ!――
不意に、
高天原(むこう)の彼女の笑顔が
脳裏に浮かぶ。
初めて出会ったとき、
食器を割って
月読に怒られていた彼女を
庇ったときに、
向けられた笑顔。
その眩しい笑顔が
胸いっぱいに広がって、
颯太はあまりの懐かしさと
もう会えないもどかしさに
身もだえる。
そんな颯太を、
那智が不思議そうに見やる。
颯太が慌てて
頭(かぶり)を振った時、
授業の開始を告げる
チャイムが鳴った。
国語の教師がチョークを片手に、
百人一首に収録されている和歌を数首、
黒板に書いていく。
そのどれもが恋の歌で、
颯太は再び頭を抱えた――。