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【タカマ二次小説】陽炎~玉響の記憶~#4 赤い果実

それはただ、
「なんとなく」だった。

なんとなく、
配膳台に並べられた
大きな赤いイチゴが目に留まり、

那智は迷わずそれを手に取った。

その時点では、
自分で食べるつもりだったのだが、

いざ席に着いてみると、
隣に座る颯太の皿に載っているイチゴが、

それほど熟れているようには
見えなくて。

(そういえばコイツ、今日誕生日じゃん?)

そう思ったら、
急にこのイチゴをあげたくなって。

けれどなんて言い出せば
よいのかもわからずに、

ただ無造作に、
彼の皿にイチゴを載せた。

案の定、彼は那智の言動を訝しむ。

妙に照れ臭くなって、
つっけんどんな態度を返し、

逃げるように席を立った。

自分でもどうかしていると思う。
どうかしていると思うが、

鬱屈したこの気持ちの
はけ口が見いだせなくて、

いつにも増して
不器用さに拍車がかかる。

自分でも何をしたいのかが
よくわからなくなって、

なんだか妙に苛立ちを覚える。

(高天原(むこう)の颯太(アイツ)だったら……)

こんな自分になんて言っただろうか。

「バカだなぁ」と笑っただろうか。

「ありがとう」と素直に
受け取ってくれただろうか。

いやむしろ、
高天原(むこう)の自分だったら、

どんな態度を取っていただろうか。

もっと可愛く振舞えただろうか。

きっとそうだと、
よくわからない確信が芽生えて、

那智は喉の痛みと一緒に、
苦い何かを噛み潰す。

夢の中の自分と今の自分が
妙にかけ離れたように思えて、

那智は深いため息をついた――。


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