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50歳のノート「また出会いたい物語 「殺人者のパラドックス」」

俳優チェ・ウシクは韓国バラエティシリーズ「ソジンの家」「ユンステイ」で知った。韓国俳優たちだけでレストランや旅館を営むシリーズだ。

素人ゆえなかなか思うようにいかないトラブルになる。
そんな中でウシクはキツイ状況を嫌な顔一つ見せずに飄々と対処していく。
「こういう店員さんがいたらいいな」と思うほどトラブルに機転を効かせて対処する。お客様を楽しい気分にさせることも忘れない。
番組の中で海外のお客様に「僕は映画「パラサイト」に出ていて」と自己紹介していた。
え、そうだったの? というくらい失念していた。
「パラサイト」が濃密な世界観で完成度が高いことは感じていたが、長男役のウシクをピックアップして、、という気持ちになっていなかった。

彼はパッと見、ふつうの青年である。
その普通らしさを武器にした「殺人者のパラドックス」という作品に出会った。
バラエティ作品のイメージの快活なチェ・ウシク、なんなら普通に街中にいそうな容貌の彼が俳優としての凄みを見せてくれる。

物語はウシク演じるタンがコンビニでアルバイトするところから始まる。
日常に流されてぽやんと生きているタン。
ある日酔って暴れる客と乱闘になり殺されそうになったタンは無我夢中で反撃し相手は絶命する。
すぐ捕まると思いきや不思議な偶然が重なりタンが犯人とバレない。
ビクビクして過ごすうちタンの犯行を見たという女がコンビニに現れ脅迫してくる。
絶対絶命のタンは状況に突き飛ばされるように犯行を重ねていく。

普通に生きていただけの青年タンが追い詰められた果てにやぶれかぶれに犯行を重ねていく。
こんなはずじゃなかったと嘆くタンを守るように「偶然」が味方してなかなか捕まらない。
不思議と殺された被害者は悪行を重ねた悪人だった。タンは望んでいないが悪人を退治していることになっている。

物語に緊張感を与えるのはソン・ソック演じる刑事ナンガムである。
タンを怪しんだ彼はタンが殺人を犯した証拠に迫るも「偶然」に阻まれる。

状況に突き動かされて望まぬ犯行を重ねるタン。
刑事ナンガムはタンを追うも偶然が彼を守る。
2人の間にピンと張られた糸があるようで緊張感を醸し出す。

状況の被害者として嘆きつつ殺人を重ねるタンが、物語の後半、がらりと姿を変えてくる。
一度姿を消したタンが再び現れると影のあるダーク・タンになっていて驚く。
状況に追い込まれて罪を重ねる普通の青年だったはずが、「悪人を仕留める」意図的なキラーになっていた。
物語の前半との落差もそうだが、バラエティ番組でのPOPな姿を知っているだけにそのギャップが凄い。

色濃く悪を受け入れた姿はなんともセクシーだ。
ダーク・タンを嗅ぎつける刑事ナンガムを演じるソン・ソックの渋さも色気を感じさせる。

物語は善悪がくるくるひっくり返るところを見せてくれる。
最後は刑事ナンガムとタンの生きざまのぶつかり合いとなる。

浅いところも深いところも魅力が層をなしている。見た時々で受け取る面白さが違う作品だ。

見終わったら「殺人者のパラドックス」ロスとなった。あのダーク・タンのセクシーさを求めてチェ・ウシクの他の作品を漁ったが、それらしさは見つからなかった。

おそらく、この物語ならではの世界観で、チェ・ウシクとソン・ソックのシナジーで生まれた魅力に思う。
俳優のお力でドラマはできていると感じたほど。
こういう作品にまた出会いたい。

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