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50歳のノート「「心の奥底に触れてくる「運命を読む会社員」」


LINEマンガで骨太のドラマに出会う。
韓国の巨大企業が舞台の「運命を読む会社員」である。
主人公のチェ・ヨンフンは強力な神霊力を授かって生まれる。けれど強い欲を併せ持つ運命だった。自分の欲のために力を使うと世を揺るがすほどの惨劇が起きるという。
ヨンフンはその力に抗って欲を抑えるため幼い少年のころから寺に預けられて育つ。
青年になり欲を抑える鍛錬を終えたヨンフンは街へ降りて世の中で自分を試し始める…。

ヨンフンを中心にすったもんだが起きて彼が解決するかと思いきや、常に控えめである。
すったもんだは周りの人が中心に起こしている。ヨンフンは冷静に状況を観察してここぞというときにほんの少し手を出すだけ。
それも自分が欲を出していないか戒めつつである。
周りの人はヨンフンのおかげでことが収まったと気づかない。
平凡な容姿でその場にたたずむヨンフンはまるでモブキャラだ。

巨大企業のトップの女社長に見出されるが、あくまでいち社員の域を出ないようにつましく過ごしている。

モブいヨンフンは女社長の依頼で巨大企業の派閥争いに少しずつ探りを入れる。
相手は平凡なヨンフンを馬鹿にして甘く見ている。
けれど、ヨンフンは感じ取る力で相手の抱えている事情や心のキズを探り当て、ここぞというときに「言葉の刃」をそっと差し込む。

派閥争いやライバル企業の陥れあい、腹の読み合いは往年の名作たちが既にあるだろう。
けれどそこにヨンフンの特殊能力が物語をブーストさせる。
さらに本来は欲のために使ってはいけないというヨンフンの力、いつか欲に負けて暴発するのではないかという時限爆弾的なスリルをはらんでいる。

また、物語を魅力的にさせているのは描きこまれたリアルさである。
まず、スーツ姿の男性たちが妙にリアルだ。
さまざまな体型があってスーツもそんなふうにシワが入るよね、と思う。
「おじさん」「会社員」を記号化するのではなく、そうして生きている人たちなんだ、という現実味が伝わる。

ヒロインの位置になる社長令嬢もヨンフンが気になるがグイグイ来ないのも良い。
社長令嬢であることを伏せて、いち社員として知恵を絞ってトラブルに取り組んでいる。
ヨンフンの力だけがファンタジーだが、他は全てリアルなのだ。

現実世界にはヨンフンのような特殊能力が無くても相手や状況を読み流れを引き込むことができる人がいる。
正直羨ましい…。
自分はただ状況に巻き込まれて傷つくのみ。そこで学びという拾い物を得ていると信じたいが…。
本当のところはただグルグルパンチで状況に突っ込み玉砕してるだけなんじゃないかと思っている。真っ先に死ぬモブキャラだ。

モブく見えるが実は状況を動かしているヨンフンに憧れてしまう。
モブい己を自覚しつつもこのままでは終われないというあがき。
そんな人間の奥底を静かにかきまわしてくる物語だ。

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