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被爆証言をホフステード6次元モデルで語り継ぐ その③

「戦争は一瞬で起きるが、平和は努力して作り続けなくてはならない」

この考えをもとに、日々平和のためのストーリーを様々なかたちで伝え続ける人々がいます。

このブログでは前回に引き続き、2023年11月に異文化の専門家ネットワーク(Friends of Hofstede:以降、「フレンズ」)に向けて私が行った発表の後半部分をお届けします。

ブログを通して、世界が直面する危機に異文化理論が貢献できる可能性をお伝えするとともに、より平和で公正な未来について考える「小さな種」になることを願っています。     



トップ写真:「ミレニアムギフト」七宝壁画 (田中稔子作 2000年176x112cm)


平和学の基礎: ガルトゥングの積極的平和


「平和とは何ですか」

と聞かれたら、あなたはどう答えますか?

「戦争のない状態」でしょうか。
それとも「いじめや差別のない社会」でしょうか。

おそらく平和の定義は人によっても、時代・文化によっても異なり、答えは決してひとつではないと思います。

ここでは世界の平和研究の基礎を築いたノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥングの平和の定義を見てみたいと思います。

ガルトゥングは平和の対になる概念は戦争ではなく「暴力」であると考えました。
暴力には「直接的な暴力」と社会構造に組み込まれて主体が誰だかわからない「構造的暴力」の2種類があり、たとえ直接的暴力はなくても構造的な暴力が残っている状態を「消極的平和」と名づけました。

そして世界が目標とすべきはこの「消極的平和」の先にある「積極的平和」の状態であると考えました。

積極的平和は以下の様に定義されます。

積極的平和とはー(単に暴力やその怖れがないだけではなく)平和な社会をつくり維持するための態度、制度、構造を社会が備えていること 
-the attitudes, institutions and structures that create and sustain peaceful societies.   


Positive Peace Report 2022, Institute for Economics & Peace


たとえ戦争や紛争がないとしても、強権的政府によって情報統制や人権侵害が行われていたり、汚職が蔓延し公正なビジネス環境が損なわれたりしている状態を積極的平和とは呼べません。

人々が自由で平等にリソースにアクセスでき、安心安全な状態が保たれている。つまり、積極的平和とは「直接的な暴力」だけでなく「構造的な暴力」も低減された状態であるといえます。

積極的平和を数値化する

現在の世界の「積極的平和」の状態はどうなっているのでしょうか。

ここにひとつの指標があります。積極的平和指数(PPI)はInstitute for Economics & Peaceが世界163か国を対象に毎年調査し、発表している積極的平和の度数を表す指標です。

PPIには以下のような8つの柱に基づいています。

  • うまく機能する政府

  • 健全な事業環境

  • 低レベルの汚職

  • 高いレベルの人的資本

  • 情報の自由な流れ

  • 近隣住民との良好な関係

  • 資源の公平な分配

  • 他者の権利の受諾

Positive Peace Report 2022, Institute for Economics & Peace

積極的平和とホフステード6次元モデル

PPIの尺度で世界の国を評価すると、どのような結果になるのでしょうか。2022年のPPIのトップ10ヶ国は以下になっています。

1位 スウェーデン
2位 デンマーク
3位 フィンランド
4位 ノルウェイ
5位 スイス
6位 オランダ
7位 カナダ
8位 オーストラリア
9位 ドイツ
10位 アイルランド

Positive Peace Report 2022, Institute for Economics & Peace


ランキングを見てどう感じましたか?

あなたのイメージしていた通りでしょうか?
人によっては特定の地域・文化圏の国が多く含まれていることに気付くかも知れません。

それはどうしてだと思いますか?

ホフステードの文化次元とそれに関連した理論を使って分析すると、PPIのランキングがある文化的な共通点を強く反映していることがわかります。

それは同時に、平和研究の尺度自体が、ある文化的価値観の強い影響を受けている可能性も示唆します。

異文化理論の可能性を探る

このブログでは、「平和学の父」と呼ばれるガルトゥングの理論を使って平和を定義し、積極的平和を定量化するモデルであるPPIを紹介しました。

次回はPPIが反映する文化的価値観を明らかにし、私たちがそこから何を導き出し、どのように対話するのかを考えるための「種」をお渡しできればと思います。

                                        CQラボ 理事 田代礼子

一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(​​​​国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。

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