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【小説】 ポップン・ルージュ 7

ケーサツで出会った笠ノ場警部の勘違いからボク(主人公)は逃げ出すことになるが、途中で撃たれてしまう。目が覚めると知らない所にいるボク。さまよい歩いた先にたどり着いた場所は (おふざけ小説ですのでご心配なく?)


以前の話を読みたい方は、以下のマガジンからどうぞ


その7

 もうどれだけ歩いたか分からなくなっていました。もうどうすれがいいか分からなくなっていました。ところが、大きな桜のような木が植えてある交差点を曲がったところで頭を上げると、そこには見たことのある建物があったのです。

「ケーサツだ……」

 一方通行について聞きに行って結局逃げ出した、あのケーサツなのです。

「こっ、ここは日本だったんだ! バンザーイ! でもあんな建物あったっけ?」近づいていくと、見覚えのあるケーサツの建物のすぐとなりに覚えのないピカピカ光った建物があるのです。しかもエメラルドグリーン。

「燃やしてやる、燃やして、む。むーん?」
(うーん、あんなのあったっけ? でも、こっちの建物はケーサツに間違いないと思うんだけど……)

「あっあっ!」

 そのピカピカ光った建物の前まで来たとき、今度こそ見間違うはずの無い人物がその建物から出てきました。その建物は入り口が閉まると入り口自体が見えなくなりました。マジックです。目くらましの子供だましです。


「かっ、笠之場警部!」

 取調べを受けた、あの警部です。思わず走り出していました。大きく手を振って走っていくと、周りの景色はストップモーションのように流れていきます。木々の間からこぼれる太陽の日差しがキラキラと輝いて、星屑のようです。小鳥たちも囀り、二人の再会を祝福しているかのようです。知らない間に一筋の涙が頬をつたっています。知らない間に一筋の鼻水が鼻の下をつたっています。知らない間に一筋のよだれが……、きたないのでこの辺でやめましょう。

「かっ、笠之場警部!」やっとのことで警部の前までたどり着きました。警部と目が合います。

「33356?」

「あれ、警部も頭に円盤つけてる」ボクが円盤を指差したのを見て、警部は腕の時計(パン屋さんにいた人がしていたのと同じようなものです)のボタンを押しました。

「あんた、誰?」警部は普通の言葉で話してくれました。

「やっ、やだなあ、日本語喋れるんじゃないですか、もう。ボクですよ、ボク。ほら、一方通行のことで議論を戦わせた、ほら、ねえ?」

「一方通行? 知らんなあ。それにしても汚い格好だねえ、あんた。ちょっとこっち来て」

 腕を引っ張られ、笠之場警部がさっき出てきた建物へと連れて行かれました。入り口は近づくと突然音も立てず目の前に現れ、入るとすぐに音も立てず消えてしまいました。その建物の中はどこに照明があるのか分かりませんがとても明るくて眩しいくらいでした。入ってすぐのところで透明な丸い椅子に座らされました。椅子の中は何やら機械がピカピカ光っています。

 正面には笠之場警部が座り、その横では女性のケーカンが小さなキーボードのようなものを叩いています。カチカチカチカチ、ブラインドタッチャー。その後ろでは、もう一人の女性のケーカンが時計のようなものを手に持って何かを計っています。カチカチカチカチ、ストップウォッチャー。よく分かりません。ボクの横には薄汚いおじいちゃんが同じように座っています。

(かわいそうにおじいちゃんも捕まったのかい? でも元気出しなよ)

 にっこり微笑みかけるとおじいちゃんも微笑み返しです。


「で、どうしてあんた私の名前を知ってるの?」笠之場警部が聞いてきました。

「だっ、だって、だってだって、だってだってなんだもん」

 車のドアミラーが落ちてから今までに起きたことをできるだけ詳しく話しました。この小説が本になって手元にあったら見せるだけで済んだんですけどね。それは裏技です。


「ということは、道に倒れていたところを起こされたわけだね。うーん、なんか怪しいねえ。起こされたときいた、そのおじさんの顔は覚えてるの?」

「えっ、えーと、だっ、誰かに似てたんだけど……。そうだ、チャールズ・ブロンソンだ! チャールズ・ブロンソンにそっくりなおじさんでした! って、待てよ、待てよ、ひょっとして本物かも……」

(ひょっとして知らない間に日本にすんでいるのかもよ、チャーリー浜。)名前変わっています。しかも相変わらず古いです。

「知らんねえ、そんな人。第一私はあんたのこと全然知らないんだけど」

「そっ、そんなあ、かっ、笠之場警部ですよね?」

「そうだけど、私は警部じゃないよ」

「でも青木っていうケーカンは警部って」

「青木? 青木っていう人も私は知らないんだけどねえ」

「うっ、うそだあ、そっ、そんなはずは……」言葉を失ったままで、笠之場警部の顔をまじまじと見つめました。 つながりそうな太い眉。大きな鼻とおちょぼ口。

(なっ、なんか違う? まっ、まさか)

「かっ、笠之場さん、ひょっ、ひょっとして、おっ、おっ、お名前は?」

「私か? 脛育だけど」

「すっ、すねくんーっ!」

 何ということでしょう。ここで全てが理解できました。撃たれ倒れてうん十年、眠っている間に時が流れ流れていたのでした。

(一人ぼっちで何十年もあの場所で眠っていたの? そんなことって……)

「うっ、うわーっ、やだーっ、そんなのってーっ」叫びながら椅子から転げ落ちました。横を見るとおじいちゃんも……。

「ぎゃーっ!」
 横に座っていると思っていたおじいちゃんは、鏡のような壁に映った自分自身の年老いた姿だったのです。

「ぎゃおーんっ!」怪獣のような雄たけびを上げて、ボクはその場から逃げ出しました。

「おいっ、待て!」すねくんが叫びます。

「ぱおーんっ!」ふらふらと玄関へと向かいます。ドアがあったはずのところへ行きましたが、入り口は現れません。

「きっと呪文を唱えるんだ。えーと、そうだ確か、あれだ。天然ポメラニアーン!」何が確かか自分でも分かりませんが、その呪文が効いたらしく音も立てず入り口が現れました。

 体は相変わらずプルプル震えたままでしたが、入り口から出る途中でその揺れを利用しながら前へ進む方法をあみ出して、少しずつ外へ出ました。すねくんは、なんだかズボンのすそが絡まったようで、もたついています。その横をさきほど小さなキーボードのようなものを叩いていた女性のケーカンが通り抜けるのが見えました。ボクはあと少しでケーサツの敷地の外へ出れそうなところまで進んでいます。


「83283、2652252001! 87695824!」女性のケーカンが入り口のところから声を発しました。

「何言っているのかさっぱり分かりませーん。ぱきーんっ」後ろを振りかえって大きな声を上げた瞬間、背筋がまっすぐになりました。軟骨の一部がスライドして、ギアが一段上がったかのように、体が加速していきます。これなら速く進むことができそうです。

 体は相変わらずプルプル震えたままでしたが。


その8へ続く

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